シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「あっ、ひどい……」

　仕事を終えて家に帰ってきた一花は玄関を見て立ちすくんだ。
　護衛も駆け寄ってくる。
　玄関のドアに赤いペンキがぶちまけられていたのだ。
　護衛の一人がすぐ電話をして清掃業者を依頼してくれる。もう一人は周囲を巡回に行った。様子を窺っている者がいるかもしれないからだ。

「あなたに張りつくだけではだめでしたね。申し訳ありません」
「いいえ、こうしてそばにいてくれるだけで心強いですから」

　実際、危害を加えられそうになっても止めてくれるだろうという安心感がある。
　それにしても、と真っ赤に染まったドアを見つめて、一花は盛大な溜め息をつきそうになった。

「あれ？　手紙？」

　ポストに白い封筒が挟まっているのを見つけて、一花はそれを取り出した。
　住所も一花の名前も印字してあるが、差出人の記載はない。
　なんとなく不気味に思いながらも開けてみると――

「なにこれ？」

　中に入っていたのは一枚の白い紙。
　そこには、ただ『藤河颯斗に近づくな』とだけ印字してあった。
　颯斗の予想が当たってしまったのだ。
　今まで半信半疑でいたけれど、こうやって明確に悪意が向けられているのを知ると背筋が凍る思いになる。
　証拠としてなのかドアの写真を撮っていた護衛にその手紙を見せた。

「あの……こんな手紙が……」
「これは……。預からせてもらってよろしいでしょうか？」
「はい、もちろんです」

　気持ち悪くて持っていたくなかったので、一花は二つ返事で手紙を差し出す。
　護衛は報告の電話をかけるから家の中に入っているように言われた。
　車から今日の作業の荷物を降ろし、家の中に入る。
　自室のソファーに座り込んだところで、電話が鳴った。
　颯斗からだった。

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