シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
『話は聞いた。やはり俺のせいだったな。すまない。大丈夫か?』

 温かな彼の声にほっとこわばっていた心がなごんだ。
 できるだけ平気そうに、一花は答える。

『大丈夫です。ドアがファンキーになっただけで。明日には清掃業者の人が来て、綺麗にしてくれるそうですし』
『脅迫状も来たんだろ?』
『正直、名前まで犯人にばれていると思うと気味が悪いですね』

 車に会社名や連絡先がでかでかと書いてあるので、調べればすぐわかるものではあるが、気持ちのいいものではない。

『……犯人のあぶり出しを頼んでおきながらなんだが、実際目の当たりにすると堪えるものだな。君に何ごともなくてよかったが、本当に申し訳ない』

 颯斗のほうが沈んだ声を出すので、反対に一花のほうは落ち着いてきて、彼を慰めた。

『颯斗さんがそれを頼んでも頼まなくても、嫌がらせ犯は勝手に攻撃してきたと思いますから、一緒ですよ。むしろ、対策してもらっていてよかったです』

 なにもわからず、一人で対応していたらと考えるとぞっとする。
 恋人のふりを始めなくても、すでに一花はターゲットになっているのだ。

『警備を増やそう。防犯カメラもつける』
『……ありがとうございます』

 颯斗の言葉に、もう大げさだと笑い飛ばすことはできなかった。
 翌日、さっそく清掃業者がドアをきれいにしてくれ、別の業者が防犯カメラを設置していった。
 自宅を警備する担当が対応してくれたので、一花は普通通りに仕事に出かけられた。
 それからは車にいたずらしようとしたり、ゴミを撒き散らそうとしたりする者があったが、警備員に取り押さえられ、一花に被害はなかった。
 セキュリティは万全になったかと思われたが、そこへ今度は無言電話が始まる。
 
『はい、Green Showerです』
『………………』

 明るい声で電話を取った一花は相手が無言なので、またかと思ってしばらく待って電話を切った。
 会社の電話なので、実際の仕事の連絡もあるから出ないわけにはいかないが、このところ、ほとんど無言電話だった。ホームページからやメールで依頼が来ることが多いからだ。
 深夜に電話が鳴ることもあって、業務時間以外は音を切ることにする。
 でも、朝になってスマートフォンを見たら、非通知の着信履歴で画面が埋まっていて、うんざりした。
 ホームページは作っているが、一般の人ではなく企業から仕事を請けることにしているので、SNSなどをやっていなくてよかったと思う。
 そんなところに書き込みされたら、やっかいだ。

(こんなことなら電話を廃止しちゃってもいいかなぁ)

 プライベートは別の電話があるので、困らない。
 そのほうが経費も節約できるからと一花は真剣に検討を始めた。
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