シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「そう⾔ってもらえるとありがたいな。それじゃあ、装花が終わったら、ランチでも⾏くか?」
「はい! 例の彼女に見せつけましょう!」

 いつもの装花が終わったタイミングで、颯⽃に連れ出され、本格窯焼きピッツァの店に連れていってもらった。
 ⾼温で焼き上げられたピッツァの⽣地は表⾯はカリッ、中はもちもちで、チーズが⾹ばしい。
 生地自体が美味しくて軽いから何枚でも⾷べられそうで、⼀花の⼿は⽌まらなかった。
 自分もピザにかぶりつきながら、颯斗は満足げに笑った。

「本当に美味しそうに食べるよな」
「だって、本当に美味しいんですもの」
「気に入ってもらえてよかった。俺のとっておきの店リストの上位から連れてきてるからな」
「そのリストの中身知りたいです!」
「それは明かせないな。俺がせっせと足を運んで検証したリストなんだ」

 にやりと口の端を曲げた颯斗に、一花は意外に感じる。
 颯斗のような人は自ら探さなくてもいくらでも店を紹介してくれる人がいそうだと思ったからだ。
 
「もしかしてドライブがお好きだから、いろんなお店をご存じなんですか?」
「そうなんだ。普段はひとり気ままに車を走らせて、目についた店に入るんだが、そんなに幸せな顔をされると、もっと君を連れ回したくなるな」

 恋人のふりとは関係なく誘われているようで、また一花の胸がざわめいた。
 
(藤河邸の仕事をしてから、美味しいものばかり食べさせてもらってる気がする)

 無理やり食べ物のほうへ思考を逸らし、心臓を落ち着かせようとする。
 美形は師匠で見慣れているから、颯斗といても大丈夫だと思ったのに、なぜか勝手が違って、一花は自分の反応に戸惑った。

「そういえば、来週は遠出になるが、時間は⼤丈夫か?」

 颯⽃が予定の確認をしてくる。
 前に聞かされた美味しいショートケーキを思い浮かべて、⼀花の顔に笑みがこぼれた。
 切り替えが早いのは彼女のいいところだ。

「はい。もともと翌⽇は休みにしてるので、遅くなっても大丈夫です」
「そうか、よかった。葉⼭のほうなんだ」
「葉⼭! オシャレなイメージしかありません。楽しみです」

 ⼀花は⽬を輝かせる。
 実家が千葉にある彼⼥はそちらの⽅⾯には縁がなく⾏ったことがない。
 テレビやSNSでお⾦持ちの別荘やオシャレなお店が多いと⾒たことあり、⾏ってみたいと思っていた。

「絵が好きなら、眺めのいい美術館があるんだが」
「⾏きたいです! 絵は詳しくないのですが、⾒るのは好きなんです。装花のインスピレーションになったりしますし」
「わかった。では、そこにも⾏こう」

 こんなふうに⾷事をしながら話していると、本当に恋⼈同⼠がデートの予定を⽴てているみたいだと⼀花は照れくさくなってきた。
 しかも、相⼿は颯⽃のように素敵な男性だ。ときめいてしまっても仕⽅がない。

(飽くまで”ふり”なんだから、うっかりその気にならないように気をつけなくちゃ)

 ⼀花だったら⼤丈夫そうだと、颯⽃は安⼼していた。その信頼に応えなくてはと思った。
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