シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

始めたからには終わらせる!

「ペンキ撒き散らし、脅迫状に、不審者、無言電話か。この⼀週間で結構な量だな。すまない」

 いつもの⼟曜の装花に藤河邸を訪れると、颯⽃が待っていた。
 護衛から報告を受けているようで、深刻な顔をして、⼀花に謝ってくる。
 凛々しい眉がひそめられて、彼にはそんな表情は似合わないと⼀花は思う。

「いいえ、ペンキのあとは警備の方のおかげで嫌がらせを未然に防いでいただいたので、⼤丈夫です。むしろ、警備していただいて、ありがたいです」

 ⼀花は⾸を横に振り、⼤したことはないと微笑む。
 無言電話は困るが、守られているという意識はあった。
 嫌がらせの犯⼈はいずれもそこらで雇われたらしいチンピラで、現⾦を渡されて、実行してきたら倍額払うと⾔われたそうだ。
 雇い主のことは今のところサングラスをかけた若めの男性としかわからなかった。
 脅迫状は、いつもコピー⽤紙に『藤河颯⽃に近づくな。ひどい⽬に遭うぞ』と印字されたもので、普通郵便で届くから、なんの⼿がかりにもならない。
 ただ、颯⽃が懸念していた通り、彼に執着している⼥性の仕業らしいことだけはわかった。

「いや、やっぱり俺関連で⽬をつけられたんだから、申し訳ないよ」
「颯⽃さんが犯⼈なんですか?」
「そんなわけないだろう!」

 またもや頭を下げる颯⽃に⼀花は突拍⼦もないことを⾔い出す。
 颯⽃は驚いて⽬を剥いた。
 そんな彼に、⼀花はにっこり笑って返す。

「じゃあ、謝る必要はありません」
「……ハ、ハハハッ」

 それを聞いて、颯⽃は快活に笑い始めた。
 憂いを吹き⾶ばすような明るい笑い声に、⼀花も爽快な気分になる。
 ひとしきり笑うと、颯⽃は⾔った。

「それでも、これ以上エスカレートすると困るから、恋⼈のふりはやめるか」
「いいえ、始めたからには終わらせましょう! どうせふりを止めても嫌がらせは続くでしょうし、私に対するものが終わっても、次のターゲットが現れるかもしれません。こんなことが延々と続くなんて、颯⽃さんも嫌でしょう? 早く捕まえて、とっちめましょう!」

 そう⾔い切った⼀花を見て、颯斗は⽬を細める。
 恋人のふりが始まってから、彼はよくそんな甘い表情で一花を見る。今は藤河邸にいて、アピールしたい人はいないのだから、そんな必要はないのに。
 無駄に胸が騒いでしまうからやめてほしいと思う。
 一花の気も知らないで、颯斗はさわやかな笑みを浮かべて誘ってきた。
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