シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 ほどなくケーキとコーヒーが用意された。
 ピンク色のドームの上に生クリーム、イチゴが飾られたムースが一番かわいらしい見た目で、颯斗が食べると思うと少しおかしくなって、一花は頬をゆるめる。
 颯⽃は手を付ける前にムースをすくったスプーンを差し出し、一花に味⾒させてくれた。
 それを口に入れたとたん、彼⼥は⽬を輝かせる。

「うわぁ、ジューシー! ムースの中にジュレが⼊ってて、イチゴの味が濃厚ですね!」

 しっかり感想まで言った後で、食べさせてもらったことに気づいて、動揺した一花は顔を赤らめた。

(はしゃぎすぎだわ。恥ずかしい……。でも、恋人のふりは完璧ね)

 あまりに自然にされたので、つい受け入れてしまったのだ。
 スマートすぎる彼をうらみがましく思いつつ、自分のショートケーキに視線を落とす。
 
「味見します?」
「ん? いや、いい……でも、君が食べさせてくれるなら」

 断りかけた颯斗は途中で気を変えたのか、そんなことを言いだした。
 目が笑っているので、たぶん先ほどの行為を一花が恥ずかしがっているのもお見通しでからかっているのだろう。
 自分も食べさせてもらった手前、断れないし、なんだか負けてられないと思った一花はフォークでケーキを切り分け、彼に差し出した。
 彼女が乗ってくるとは思わなかったのか、颯斗はちょっと目を見張ると、表情を崩し顔を近づけてきた。
 食べにくかったのか、一花の手首を掴んで引き寄せ、ぱくりとケーキを口に入れる。
 
(恋人のふり、恋人のふり……)

 端正な顔の彼が自分の手から食べている状況はやけに官能的で胸が騒いで、一花は冷静になろうと、呪文のように唱えた。

「美味いな」
「そ、それはよかったです」
 
 すばやくフォークをひっこめた彼女は、今度は自分もショートケーキを⼝に⼊れた。その瞬間、一花の表情がとろけた。
 照れていたのも忘れ、頬に手を当て、うっとりする。

「美味しい! これはすごいです! 今まで⾷べた中で⼀番おいしいかも! ⽣クリームがちょうどいい⽢さだし、しっとりとしたスポンジはきめ細かで溶けるようだし、その間のイチゴの⽢酸っぱさが本当にケーキに合います!」
「気に⼊ったようでよかった」

 興奮気味に⼀花が感想を漏らすと、颯⽃はくすくすと笑い、満⾜そうにうなずいた。
 ⼀花は⽬をキラキラさせながら、彼に礼を⾔う。

「連れてきてくれて、ありがとうございます、颯⽃さん。感激の美味しさです!」
「そんなに喜んでもらえると、こちらもうれしいよ」

 颯⽃が笑うから、興奮しすぎたと⼀花はまた恥ずかしくなる。
 それからは黙ってショートケーキを⼝に⼊れた。もちろん、ナポレオンパイも完⾷する。こちらはパイがサクサクで、濃厚なカスタードとイチゴの⽢酸っぱい組み合わせが最⾼だった。
 ついつい笑みがこぼれた。
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