シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

　⾞で帰宅する途中、とうとう涙があふれた。路肩に停⾞すると、顔を覆う。
　後から後から涙が出てきて止まらない。
　こんなに泣いたのは久しぶりだった。
　⽬が痛くなるほど泣いて、疲れ果てた⼀花はスマートフォンを取り出し、颯⽃の連絡先をブロックした。
　そして、削除ボタンを押そうとしてためらう。
　胸が痛くてたまらなかった。
　ポトリと涙が画面に落ちる。
　それを合図に、一花は颯斗の連絡先を消去した。

（貴和子さんには申し訳ないことをしたわ……）
　
　彼女に非はないのに、急に辞められて感じが悪いに違いない。
　いつも親切にしてくれたし、自分の装花を楽しみにしてくれていた貴和子を思うと、心苦しい気持ちでいっぱいになった。
　貴和子にはこちらの勝手な都合で急に辞めることになり申し訳ないと丁重に謝罪メールを書いて送った。
　復帰するつもりはないことをはっきり書いたので、彼女から引き留めることはないだろう。
　友人を紹介すると言われていたが、まだ具体的になってなくてよかったと思う。

（これでもう彼との繋がりは消えた……）

　精悍な颯斗の顔を思い浮かべ、自嘲する。
　あっけなかった。
　それほどに颯斗との縁は薄いものだったのだ。
　もう彼の⼈⽣と交わることもないだろう。
　簡単に切れる相手だったから、颯斗も彼女に手を出したのかもしれない。
　そんなことを考え、また目が潤んでくる。

（私の人を見る目もまだまだね。精進しなくちゃ）

　そう自分を茶化して、気分を変えようとする。
　胸の痛みはひどいけど、自分で招いた結末だ。
　あのとき、颯斗はちゃんと彼女の意志を確認してくれたのだから。

「ああーッ、やめやめ！」

　⼀花はパンッと⾃分の両頬を叩いて気合いを⼊れた。
　うじうじするのは嫌いなのだ。

（仕事頑張ろう！　営業しなくっちゃね！）

　取引先が⼀つ減ってしまったから、挽回せねばと無理やり思考を仕事に切り替える。
　貴和子からは後ほどただひたすら残念がってくれている返事が来た。気が咎めたものの、そこで連絡は絶った。とにかく今は颯斗との関係を断ち切りたかったのだ。