シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「ところで、明日のことですが――」
「あぁ、すみません、立たせたままで、こちらで打ち合わせをしましょう」
小木野はドアを開けて中へ通してくれる。
一花が働いていたときとレイアウトは変わらず、広い作業スペースと事務机が並んでいた。
以前は一花の机もあったが、当然今はないので、打ち合わせコーナーに案内され、イベントの説明を受けた。
師匠の装花デザインは美麗で、ラフ画なのにうっとりしてしまう。
このセンスに惚れて、一花は彼の門戸を叩いたのだ。
ちょうど一人アシスタントを募集していたところで、師匠のもとで働けて本当に幸運だったと思う。
「……段取りはこんなところですね。もう、こんな時間か。残りはあとにしてランチでも行きましょうか」
明日行う装花の詳細を聞いて、一花が担当する部分のデザインを確認していたら、一時を過ぎていた。
ランチと聞いたとたん、急に空腹を感じてお腹が鳴りそうになる。
このところ食欲がなかった一花だったが、今日は気分が変わったおかげかもしれない。
「いいですね。駅近くのピザが美味しいイタリアンってまだあるんですか?」
「ありますよ。そこにしますか?」
「久しぶりにあそこのピザが食べたいです」
「いいですよ」
生地自体が美味しいピザの店は彼女のお気に入りで前は定期的に通っていたが、独立してからは初めて行く。
二人は歩いて、その店に向かった。
お昼時は込み合うが、ピークを過ぎていたので、すんなり入ることができる。
四人掛けの席に案内されて、向かい合わせに座った。
「うーん、マルゲリータにするか四種のキノコのピザにするか……」
「それなら両方頼んで、シェアしましょう」
「ありがとうございます!」
一花がメニューを見ながら悩んでいると、小木野がそう提案してくれる。
そういえば、意外と優柔不断な一花を見かねて、小木野はいつも彼女の迷っているメニューを頼み、シェアしてくれていた。
(颯斗さんもケーキを分けてくれたなぁ)
同じ状況になったときのことをふいに思い出し、また彼のことを考えている自分に気づく。
思考がすぐに颯斗に結びついてしまって、苛立った。
(もうっ!)
どれくらい経ったら彼のことを思い出さずにいられるようになるのだろう。
そう考え、しばらくは無理そうだと結論づけて溜め息をつきそうになる。
しかし小木野に心配をかけないために、その代わりに敢えて弾んだ声をあげた。
「久しぶりだから楽しみです!」
石窯で焼いたピザは時間もかからず、すぐサーブされてくる。
外側はカリッと内側はモチッとしている生地は変わらない味で、食感もよく美味しかった。
小木野は昔からいるメンバーの近況や、最近の仕事でおもしろかったことなどを話してくれて、敢えて明るい話題を選んでくれているようだ。
(そういえば、師匠は気遣いも完璧な人だったわ)
巧みな話術に、一花は気分がほぐれてくるのを感じて感謝する。
食後のデザートにチーズケーキまで食べた一花はすっかり癒された。
「美味しかったですね~」
店を出たところで、味を反芻して笑顔になった一花に、小木野もにこりと微笑んだ。
そして、すっと風で乱れた彼女の髪を直し、つぶやく。
「やはりあなたには笑顔が似合う」
キザなセリフも小木野が言うと様になり、慣れている一花でもドキッとした。距離感もやたらと近いのだ。
師匠は優しいので、こうして女性に誤解を振り撒きまくっている。
特に、一花が弟子の中で一番若いからか気にしてくれて、やたらとかまうので、彼女は同僚や女生徒からやっかまれたりからかわれたりしていた。
(また師匠の悪い癖が出た)
苦笑した一花はやんわり咎めようと口を開いた。
そのとき、師匠の後方に見知った顔が見えて、そのまま彼女は凍りついた。
一花の目に映ったのは、今、一番会いたくない人の姿だった。
「あぁ、すみません、立たせたままで、こちらで打ち合わせをしましょう」
小木野はドアを開けて中へ通してくれる。
一花が働いていたときとレイアウトは変わらず、広い作業スペースと事務机が並んでいた。
以前は一花の机もあったが、当然今はないので、打ち合わせコーナーに案内され、イベントの説明を受けた。
師匠の装花デザインは美麗で、ラフ画なのにうっとりしてしまう。
このセンスに惚れて、一花は彼の門戸を叩いたのだ。
ちょうど一人アシスタントを募集していたところで、師匠のもとで働けて本当に幸運だったと思う。
「……段取りはこんなところですね。もう、こんな時間か。残りはあとにしてランチでも行きましょうか」
明日行う装花の詳細を聞いて、一花が担当する部分のデザインを確認していたら、一時を過ぎていた。
ランチと聞いたとたん、急に空腹を感じてお腹が鳴りそうになる。
このところ食欲がなかった一花だったが、今日は気分が変わったおかげかもしれない。
「いいですね。駅近くのピザが美味しいイタリアンってまだあるんですか?」
「ありますよ。そこにしますか?」
「久しぶりにあそこのピザが食べたいです」
「いいですよ」
生地自体が美味しいピザの店は彼女のお気に入りで前は定期的に通っていたが、独立してからは初めて行く。
二人は歩いて、その店に向かった。
お昼時は込み合うが、ピークを過ぎていたので、すんなり入ることができる。
四人掛けの席に案内されて、向かい合わせに座った。
「うーん、マルゲリータにするか四種のキノコのピザにするか……」
「それなら両方頼んで、シェアしましょう」
「ありがとうございます!」
一花がメニューを見ながら悩んでいると、小木野がそう提案してくれる。
そういえば、意外と優柔不断な一花を見かねて、小木野はいつも彼女の迷っているメニューを頼み、シェアしてくれていた。
(颯斗さんもケーキを分けてくれたなぁ)
同じ状況になったときのことをふいに思い出し、また彼のことを考えている自分に気づく。
思考がすぐに颯斗に結びついてしまって、苛立った。
(もうっ!)
どれくらい経ったら彼のことを思い出さずにいられるようになるのだろう。
そう考え、しばらくは無理そうだと結論づけて溜め息をつきそうになる。
しかし小木野に心配をかけないために、その代わりに敢えて弾んだ声をあげた。
「久しぶりだから楽しみです!」
石窯で焼いたピザは時間もかからず、すぐサーブされてくる。
外側はカリッと内側はモチッとしている生地は変わらない味で、食感もよく美味しかった。
小木野は昔からいるメンバーの近況や、最近の仕事でおもしろかったことなどを話してくれて、敢えて明るい話題を選んでくれているようだ。
(そういえば、師匠は気遣いも完璧な人だったわ)
巧みな話術に、一花は気分がほぐれてくるのを感じて感謝する。
食後のデザートにチーズケーキまで食べた一花はすっかり癒された。
「美味しかったですね~」
店を出たところで、味を反芻して笑顔になった一花に、小木野もにこりと微笑んだ。
そして、すっと風で乱れた彼女の髪を直し、つぶやく。
「やはりあなたには笑顔が似合う」
キザなセリフも小木野が言うと様になり、慣れている一花でもドキッとした。距離感もやたらと近いのだ。
師匠は優しいので、こうして女性に誤解を振り撒きまくっている。
特に、一花が弟子の中で一番若いからか気にしてくれて、やたらとかまうので、彼女は同僚や女生徒からやっかまれたりからかわれたりしていた。
(また師匠の悪い癖が出た)
苦笑した一花はやんわり咎めようと口を開いた。
そのとき、師匠の後方に見知った顔が見えて、そのまま彼女は凍りついた。
一花の目に映ったのは、今、一番会いたくない人の姿だった。