シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

誤解だったの?

 彼がこんなに不誠実だとは思わなかった。
 つらくなった一花は視線を落とそうとした。
 それなのに、颯⽃は彼女の顎を掴み、まっすぐ目を合わせてきた。そして、きっぱりと言う。

「俺は君以外と結婚する気はない」
「……はい?」

 思ってもみなかった⾔葉が聞こえて、⼀花は気の抜けたような声を漏らしてしまう。
 キョトンとして、彼を⾒上げる。
 彼⼥の反応を⾒た颯⽃はハァァと深い溜め息をついて、表情を緩めた。
 額に⼿を当て、つぶやく。

「はっきり⾔わなかった俺が悪かった」
「なにを? 遊びってことをですか?」
「だから遊びのはずがない! 君に惹かれたから抱いたんだ。君が好きになったから、離したくなくなったから結婚したいと思った。それで親父に結婚したい相手がいると言ったんだ。もちろん君のことだ」
「えぇー?」

 ⾃分の⽿を疑って、⼀花は聞き返す。
 耳ざわりのいい⾔葉ばかりが聞こえた気がしたのだ。
 疑われているのを感じたのか、颯⽃は彼⼥の頬を両⼿で持ち、顔を近づける。
 そして、はっきりと誤解の余地なく⾔った。

「⼀花、君が好きだ。結婚してくれ」

 ひゅっと息を呑んだ⼀花は⽬をまん丸にした。
 それは彼女の聞きたかった言葉だったが、とても本当のことだとは信じられなくて首をゆらゆらと振りながらつぶやく。

「っ……うそ……!」
「うそでこんなこと⾔うか! だいたい君は俺のことをそんな軽薄なやつだと思っていたのか?」

 ふてくされたようにぼやいた颯斗はいつもより幼い態度だった。
 素の顔を見せてくれているように思う。
 一花だって、颯斗が女遊びをする人だというのには違和感があったが、状況がそれを指し示していた。
 
「そう、思いたくなかったですが、据え膳は⾷うのかなと……」
「据え膳……。そう思われてたのか」
「それに葉山以降、私が電話するまで連絡もくれなかったし、顔を合わせることもなかったじゃないですか」
「俺だって連絡したかったさ。だが、仕事が立て込んでて、連絡できそうなのが夜遅くだったんだ。君は朝早くからの仕事が多いって言ってただろ? 起こしたら悪いなと思って連絡できなかったんだ。それが反対に不安にさせてしまって申し訳ない。まさか君がそんなふうに考えているなんて思ってもみなかったんだ」

 彼女に気を遣った結果の行動だったと知って、一花はほっと息を吐いた。

(誤解……だったんだ。結婚したい相手って私のこと?)

 じわじわと喜びが湧き上がってくるけれど、まだ完全には信じ切れなくて、じっと彼を見上げる。
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