シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「……私、割り切って遊べる性格じゃないんです。恋⼈のふりは終わったのなら、私の役割は終わったはずでしょう? だから、連絡を絶ったんです」

 本当はこんなことが言いたかったのではなかった。
 ちゃんと自分の気持ちを伝えて、フラれようと思っていたのだ。しかし、彼の矢継ぎ早の問いかけに反応してつい言ってしまった。
 とたんに颯⽃の表情が変わった。
 その⽬が⾒たこともないほど険しく尖って、激しい怒りを浮かべている。
 彼は低い声で問い詰めてきた。

「遊ぶ? ……もしかして君は今までのことをすべて”ふり”だと思っていたのか?」

 その迫⼒に怖くなった⼀花は後ずさりする。しかし狭いソファーでは逃げ場がなかった。
 彼女の両肩を持って、身を近づけた颯⽃が追い詰めてくる。
 ホテルで迫られたときと同じような体勢だが、彼の表情がぜんぜん違う。
 前は熱く蕩けるようだったのに、今はギラギラとした⽬で⼀花をにらんでいる。
 彼の怒りに一花はとまどった。

(え、だって、そうでしょう? “ふり”じゃなかったらなんなの? 結婚するくせに!)

 どうして⾃分が責められなければならないのかと今度は腹が⽴ってくる。
 彼の怒りが理不尽に思えて、⼀花は⾔い返した。

「だって、結婚前につまみ⾷いしただけなんでしょう? ちょうどよく私がそばにいたから」

 ⾃分で⾔った⾔葉に⾃分で傷つく。
 虚を突かれた顔をした颯⽃は問い返してきた。

「結婚前って、誰が誰と結婚するんだ?」

 とぼけるつもりかと、⼀花はなじるように叫ぶ。

「颯⽃さんに決まってます! この間の彼女と結婚するんでしょう? 隠しても知ってるんだから。藤河社⻑がおっしゃってたわ」
「……っ、あのクソ親⽗!」

 拳をソファーの背に打ちつけて颯⽃は悪態をついた。その様⼦に、ばれたのが気まずいのだろうと⼀花は悲しくなる。
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