シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

　颯斗は颯斗で、拗ねた口調でつぶやいた。
　
「だけど、君からだって連絡くれてもよかったんじゃないか？　パーティーでイチャイチャを見せつけようと言う前に。俺は付き合いたてで浮かれていたから、距離を置くより二人の仲を見せつけて煽るほうがいいと言われて、改めて君に惚れ直していたというのに」
「いえ、だって、私から用もないのに颯斗さんに連絡するなんて……。遊ばれているのかもと思っていたし」
　
　⼀花がしどろもどろに答えると、彼はまた額に⼿を当てうめいた。
　お互いの認識のあまりの違いにめまいがするというように。

「君も同じ気持ちだと思っていたよ。じゃあ、なんであのとき、俺を受け⼊れたんだ？」
「えっと、好きだったから？」
「どうして疑問形なんだ！？」

　⾃信なげな⼀花の回答に、颯⽃は詰め寄った。
　あのときは正直⾔って、まだ⾃分の気持ちがあいまいだった。彼に惹かれながらも踏み出していいのかどうかわからないまま、颯⽃の熱に流されたのだ。

（だいたい、いきなりだったじゃない！）

　そんなことを聞かれても困るとふくれて、⼀花は⾔い返した。

「だって、恋愛の経験少ないし、状況の変化についていけなかったし、恋⼈のふりだと思ってたから好きになったらいけないと思ってたし。そこに颯⽃さんが結婚するって聞いて……。そうだわ、あのときの女性は？　休日に仲良さげに歩いているから、彼女が結婚相手だと思ったんですよ？」
「あれは単に取引先の社長だ。商談の合間に買い物に行きたいとせがまれ、連れ回されてたんだ」

　ビックプロジェクトの要人だから無碍にもできず、接待していたらしい。
　ちゃんと聞いてみると、すべてが誤解というか一花の勘違いだった。
　颯斗はちゃんと彼女のことを想ってくれていた。

（あんなに不安で切なくて苦しかったのに。勇気を出してはっきり聞けばよかったんだわ。バカね、私……）

　仕事なら確認を怠ることはないのに、プライベートでは気弱になってしまった。
　しかも、そのせいで、颯斗にひどい態度を取っていた。
　一花が後悔しているところに、今度は颯斗が咎めるように尋ねてくる。

「そういえば、この間から一緒にいる男は誰なんだ？」
「え？　あぁ、師匠ですよ」
「師匠って男だったのか！　ずいぶん仲が良さそうで、君を奪われるかと思って焦ったよ」

　自分たちもそんなふうに見られていたのかと驚く。
　お互いに誤解しあっていたらしいと、おかしくなって一花は笑った。
　そして、笑っているうちに涙が出てきた。
　安堵したら涙腺がゆるんでしまったのだ。