シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「く、ぅ……」

 手を口に当て、嗚咽を堪える。
 ほっとしただけでなく、後悔や申し訳なさ、彼への恋情――さまざまな感情があふれてきた。

「ごめ……ごめんなさい。勝手に誤解してあなたをブロックして逃げた……。ひどい態度でした……」
 
 泣きながら謝りだした一花を颯⽃が抱きしめる。

「いいや、俺が悪い。君を誤解させてそこまでさせてしまった俺がいけないんだ。悪かった」

 彼は謝りながら、彼女の背中をなでてくれる。
 その温かい胸に包まれて、ここがかりそめのものではなく⾃分がいていい場所なんだと感じ、⼀花は初めて⾃ら彼の背中に⼿を伸ばした。
 頬を濡らした⼀花の顎を持ち上げ、颯⽃が優しく涙を拭ってくれる。
 そして、まぶたにキスを落として⾔った。

「もう不安にさせない。愛してる、一花。だから、俺を好きだと言ってくれ」

 視線を上げたら、乞うように一花を見つめる颯⽃の瞳とぶつかって、まだ自分が疑問形でしか告白していないことに気づく。

(ちゃんと気持ちを伝えようと思っていたのに)

 テーブルの上の花束が目に入る。
 マリーゴールドの花言葉には『勇気』のほかに、『変わらぬ愛』というのもあった。
 今こそ愛を伝えたいと思った一花は彼の両頬にそっと手を当て、その顔を引き寄せた。
 愛しい気持ちがあふれ出る。

「颯斗さん……好きです」

 彼の顔がみるみる喜びに輝いていくのを見て、一花も幸せな気分になった。
 こつんと額を彼女の額に当てた颯斗は想いのこもった声で言う。

「好きだ、一花。愛してる」

 今までのことを挽回するように何度も言ってくれる。
 直球の言葉に胸が打たれる。
 一花の頬をまたほろりと涙がこぼれ落ちた。
 颯斗はそれを唇で辿り、彼女の顔中に口づけていく。
 そして、一花にキスしかけて、思いとどまったように止まった。

「キスしていいか?」

 息がかかる距離で聞かれる。
 改めて尋ねられると無性に恥ずかしくなって、一花は抗議した。
 
「そんなこと聞かないでください!」
「また俺の先走りだと困るからな。俺は君が好きだからキスしたい。いいか?」
「……はい」

 彼の甘い言葉に、ボンッと音を立てるように一花の顔が赤くなる。
 小さく返事したとたん、熱い唇が落ちてきた。
 その唇は一花のものを甘くついばみ、彼女が口を開くと、舌が忍び込んできた。
 慣れない彼女の舌を掬い上げた彼はそれを擦り合わせる。絡み合った舌がじんじんするような快感を生んで、一花は甘い吐息をついた。

(颯⽃さんは私のことを好き……)

 情熱的なキスに翻弄されながら、一花は実感していた。
 今までの⽢さは偽りのものではなく、本物だったんだと思うと、⼼が幸せに満たされる。
 うれしくてジタバタしたいような気分だ。
 いつの間にか彼の手が一花の後頭部を押さえ、より深く唇が合わさるとともに、反対側の手が彼女の身体を愛撫しはじめた。
 肩から背中をなでた手は腰のくびれを辿り、太ももまで下りてくる。
 だんだん身体が熱くなってきて、一花の頭もボーッとしてくる。

(このまま……?)

 彼の欲情を感じて、一花の身体の奥が疼いた。
 彼女も颯斗を深くまで感じたかったのだ。
 でも、ふいに彼は唇を離した。
 密着していた身体も離すので、熱が遠ざかってさみしい気分になる。
 上気したままの顔で一花が見上げると、颯斗は照れたように笑って、彼女の頬をなでた。

「……流される前に話すことがある」

 情欲を抑えるように、颯斗は髪を掻き上げた。
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