シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

いつも急すぎます!

 ふぅと息をついてから、颯斗は一花を見た。
 色気は抑えられているが、蕩けるような甘いまなざしが彼女の胸を高揚させる。
 そこにまぎれもない愛情を感じて、こんな彼をどうして疑ったのだろうと不思議に思うくらいだった。

「⼀花、報告が遅くなったが、先日の顛末を話す」

 颯斗は表情を改めて真摯な目になった。
 身を挺してかけた罠に引っかかった令嬢はどうなっただろうと思っていたので、一花も気を引き締めて聴く体勢を取る。

「あの社長令嬢の件は、きっちりかたをつけた」
「え、もうですか?」
「あぁ、君のおかげでな。だから安⼼して、俺のそばにいてくれ」

 言葉通り、颯斗は一花の身体を囲うように腕を回して引き寄せた。彼の胸に顔を押しつけられた⼀花の⿎動が速くなる。
 そのままの態勢で、彼はまず経緯を説明してくれた。
 ⼀花は彼にもたれかかり、顔だけ上げて、リラックスした状態でそれを聞いた。

「綾部社⻑とじっくり話したんだ」

 颯⽃が⾔うには、嫌がらせを依頼していたのが、綾部物産の社⻑令嬢の世話係じゃないかと推測して、捕まえた実⾏犯に写真を⾒せたところ、覚えている者がいたらしい。
 その証⾔と、⼀花が綾部物産のせいで仕事を失ったこと、シャンパンをかけられたことを挙げて、綾部社⻑に娘をなんとかしろと迫ったらしい。次は警察沙汰にすると脅して。

「事件にできなくてすまない」
「いいえ、被害に遭ったのは数回で、あとはぜんぶ未然に防いでもらってたから警察に訴えてもきっとなんともならないし、嫌がらせが収まればそれでいいです」

 また謝っている颯斗に一花は微笑みかけた。
 実際、狙われている緊張感はあったが、それほど被害は受けていないのだ。無言電話には疲弊したが。
 仕事を切られたのは痛かったが、罪に問える種類のものではない。
 あっさりした一花に「さすがだな」と笑って、颯斗は彼女の髪をなでた。
 
「⾦輪際、君や俺に⼿出しはさせないと約束してもらったよ。パーティー会場で、シャンパンをかけるなんて⾏動はどう考えても異常だから、カウンセリングにかかることを勧めておいた」
「そうですよね。颯⽃さんも⾒てる前であんなことするなんて。後先考えられなくなってたのかしら?」

 美⼈だったけど、神経質に⾒えた彼⼥を思い出して、⼀花はうなずいた。
 やったことは許せないが、病気で思い詰めていたのかもしれないと思うと少し同情心が湧く。
 そんなことを考えていると、いきなり颯⽃が姿勢を正した。

「話は早くまとまったが、君をあんな⽬に遭わせて本当に申し訳なかった」

 颯⽃が頭を下げる。
 今日の颯斗は謝ってばかりだ。
 あのときも謝ってくれたのに、まだ気にしてくれているようだ。

(そういえば、この⼈はちゃんと謝れる⼈だった)

 そんな誠実な⼈が結婚前に⼥遊びなどするはずがなかったと考えて、⼀花は⾃分の思い違いを反省する。そして、いたずらっぽい顔になった。

「いいえ、⼤丈夫です。煽りましょうと⾔ったのは私ですし、リアルにシャンパンをかけられる経験なんてめったにできないですよね。そこに颯爽と颯斗さんが現れて、ドラマか映画みたいでした」

 むしろおもしろいと⾔わんばかりに⼀花はあっけらかんと答えた。その頬をなでて、颯⽃が破顔した。
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