シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 師匠の家を出て、車に乗り込むなり、颯斗は尋ねてくる。

「一花、式はいつにする? 先に入籍するのもありだな」

 小木野に会って、より結婚を早めたくなったようだ。
 どんどん段取りを進めていく颯斗に、一花は苦笑した。

「そんなに急がなくても……」
「早く君と一緒に住みたいんだ」

 そう言われて、一花は彼との生活を思い浮かべる。
 彼女は朝早いし、颯斗は仕事で夜遅いだろうからすれ違ってしまうこともあるかもしれないが、起きてから寝るまでずっと彼が隣にいる――。
 それはとても幸福なことで、喜びが弾けた。

「そうですね。先に一緒に住むのはありかも」
「よし、物件を見に行こう」
「だから、気が早すぎですって」

 このまま不動産屋に直行しそうな颯斗を笑いながら止めた。

「そういえば、君さえよければ、式や披露宴の装花をデザインしたらどうだ?」
「いいんですか!?」

 ブライダル装花は師匠の手伝いでやったことがあるだけで、独立してから請けたことはないが、やってみたい仕事の一つだった。
 まさか自分の結婚式の装花ができるとは思ってなかった。
 目を輝かせた一花をまぶしげに見て、颯斗が笑う。

「もちろんだ。俺は君のセンスを高く買ってるんだ。素敵にしてくれるんだろ?」
「はい、がんばります!」

 さっそくどんな感じにしようと生き生きと考え始めた一花を、颯斗は愛おしげに見た。
 結局、一花の両親への挨拶が終わったあと、颯斗に不動産屋に連れていかれ、結婚式場の分厚いパンフレットの束を渡された。
 颯斗と出逢ってから、ジェットコースターに乗っているみたいだ。
 ハラハラする場面もあったが、今はワクワクと楽しめる。
 きっとこんなふうに⼀⽣翻弄されるのだろうなと一花は覚悟した。でも、それも悪くないと思う。

(⾬降って地固まるというけど、私たちは雨にも降られて、さらにシャンパンまでかけられてまとまったわね)

 彼といたら、飽きない経験ができるかもしれない。
 そう考えるとおかしくなって、⼀花はくすっと笑いを漏らす。

「なんだ?」

 颯⽃が不思議そうに首をかしげて彼⼥を⾒た。
 一花は笑顔で彼を見上げて告げる。

「ううん、ただ、幸せだなと思っただけです」
「そうか。俺もだ」

 破顔した颯斗は一花の頭を引き寄せて、そのこめかみにキスを落とした。
 愛おしい気持ちで胸がいっぱいになる。
 そして⼆⼈はお互いを⾒つめ、満ち⾜りた笑みを浮かべるのだった。


 
 ―FIN―
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