心から願っています
そして気づいた。隣に並んで話すと全然目が合わない。

俺が横を向いた時は、依織はいつも前か、斜め下か、空を見てる。

「依織ってさ、あんまりこっち見ないね。」

恥ずかしいから、とか言ってくれるかなと思って言った。でも、

「まぁ、そういう人なんです。」

と想像もしない答えが返ってきた。

「は、え、どういうこと?」

「いやー、人と目を合わせるのが苦手っていうか、合ったらすぐそらしちゃうし。中学生の頃、時々親友とずっと目を合わせる、みたいなことやってたんですけど、自分がいつの間にかそらしちゃってたんですよね。」

「へー」

面白いなって思った。

依織のこんなこと知っている人、その親友くらいでしょ、って思うと嬉しくなった。

依織の顔を少し覗き込むようにして見る。すると、依織は一瞬だけ目を合わせてからそらす。

「恥ずかしい?」

と俺が聞くと、依織は「いや」と言って、目を合わせてきた。

どこまで続くかなと思い、心の中でカウントしようとすると、もうそらされていた。

「はやっ、1秒たってないよ。」

「無理でした。やっぱ苦手です。しかも、先輩……」

と言いながらもまた俺の目を見てきた。

俺も依織の目を見たが微妙に目が合っていない気がするのは気のせいだろうか。

「先輩の目、綺麗ですね。」

と依織は前を向きながら言った。俺の目は真っ黒だ。色のことではないと思う。

「なんか澄んでいる感じ」

独り言に近いような感じで言っている。

なぜだか聞いてはいけないようなことを聞いてしまったような気分になった。
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