父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
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 物事引きずらない女と引きずる男の恋愛は果たしてうまくいくのか。

 おととい四季浜さんと再会して戸根院長の頭の中も心の中もごっちゃじゃないのかな。

 昨日の戸根院長は、ごっちゃなのかいつもの気分屋さん発揮で機嫌良く仕事をさせるのに梨奈ちゃんが大変そうだった。

 しゃあない、繊細さんは気分屋さんだから。
 
 今日は四季浜さんがアリスを連れて来院する予定だったんだけどな。
 仕事が遅いのか今日も時間外で来るのかな。

 誰も居ない待合室を掃除する梨奈ちゃん。戸根院長は、たまに腕時計を気にしながら受付で電子カルテの整理をしている。

 閉院から五分ほど経ってから四季浜さんが到着。

 梨奈ちゃんが入り口のドアを開けに行く前に、すくっと立ち上がった戸根院長が先に四季浜さんとアリスを院内に入れた。

「こんばんは、遅くにごめんなさい」

「お疲れ、かまわない。外は寒かっただろう、アリスを早く中に入れてあげて」

 二月の夕方の冷たさは頬は痛み、肺の中まで冷たさを感じる。

 私と梨奈ちゃんに申し分なさそうに深々と頭を下げる姿は、こちらが恐縮してしまうほど。

 四季浜さんが動くたびに冷気が感じられ、外の寒さが想像出来る。

「祐希くん、おとといと印象違うね」
「今日は前髪上げているからじゃないのか、その日の気分で上げたり下ろしたりしている」

「変わらないね、気分屋さんのところ」
 クスって漏れる声まで控えめで可愛らしい。昔っから気分屋なんだ、この人。

「そのまま診察室に入って」
 戸根院長が四季浜さんの頭上から、持て余す長い腕を軽々伸ばして診察室のドアを開けてあげた。

 診察室の外からガラス越しに診療風景を見ていたら、アリスの腹痛は徐々に改善した様子。

 しばらくして診察室のドアが開いて「伊乃里先生、腹部CT検査をするから来て」って。
 戸根院長と二人で検査をおこなった。

「二日間の経過観察でアリスだいぶ良くなりましたね。床に腹部をつけて伏せていますし」

「腹部の張りもなくなり、腹部を触ると力を入れて痛がっていたそぶりもなくなった」

「見てくれ。胃の中も食道も白い影は消えてなくなり腹膜炎の所見も消失した」

「私たちの正解が画像に表れていますね」
「ああ、思った通りの経過だったな」
「アリス、良く頑張りましたね」

 検査が終わり、診察室で待っていた四季浜さんに戸根院長が腹部CTの結果を報告した。
 ひとまず心配はいらないので治療終了となった。

 精算を終えた四季浜さんが入り口のドアを開けようとした戸根院長を上目遣いで見上げている。

「唯夏、どうした?」
「少し話せないかな、近くにドッグカフェがあるよね」
 可愛らしい笑顔を浮かべた。

「ペット可はテラス席のみだ。アリスは病み上がりだし老犬だ、唯夏も風邪を引いたらどうするんだ」
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