朱の悪魔×お嬢様
「死んだんだって分かってる…分かってるのに、何ででしょうね?人って、頭では分かってても、どこかで―――認めようとしないの」

「凜、さん…」

 美玖はそっと、優しく凜の頭を撫でる。

 まるで母親が子をなだめるかのようだ。

「私も、そうでした」

「え?」

 凜が顔を上げる。

 と至近距離で視線がぶつかり合う。

 美玖は同姓とは言え少々照れてしまい、顔を少し背けた。

「私も…両親が死んだ時、そうでした。頭ではちゃんと理解してるのに…理解する事を拒むというか…信じたくなかった」

「ご両親…亡くなってるの?」

「はい。小さい頃に」

 美玖は口元に精一杯の微笑を浮かべる。


 いつからだろう?

 両親が死んだ時からだろうか?
 
 “ある事”を破ったあの日からだろうか?



 表情を顔に出す事が少し、苦手になった。



 思いっきり

 笑うことも、泣くことも、怒ることも

 今では、出来ない。


「…そう」

 凜はそう小さく呟くと美玖から身体を離す。

「ごめんなさいね。こんな見苦しい姿を見せてしまって」

 明るく笑顔で言う凜。

 さっきまでの姿が嘘のようだ。

 でも、何故だろう?

 美玖にはどこか強がっているようにしか見えなかった。

「…大丈夫ですか?」

「大丈夫よ」

「強がらないで下さい」

 凜が驚きに目を大きく見開く。
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