剛腕SATな旦那様は身ごもり妻を猛愛で甘やかす~利害一致婚のはずですが~
◇
「ごちそうさまです」
「あれ? もう食べないの?」
「食欲が湧かなくて……」
昼営業終了後、同僚達とまかないを食べていた真綾の箸は思うように進まなかった。
本格的につわりも始まったのか、軽い吐き気に悩まされる日が続いている。
真綾はまかないを半分ほど残し、お茶ばかりを口に含んだ。
その様子を眺めていた織恵がおもむろに箸を置く。
「ねえ、真綾ちゃん。あとで談話室まで来てくれる? 話があるの」
織恵は食後、真綾を同じ総合庁舎内にある談話室に招き入れ、用心深く内側から鍵をかけた。
六畳ほどのスペースには小さなテーブルとパイプ椅子がふたつ置いてある。
織恵は真綾をパイプ椅子に座らせた直後、重々しく口を開いた。
「ねえ。何か私に隠していることはない?」
「隠していることなんて……」
「嘘おっしゃい。鏡の中の自分の顔をちゃんと見てる?」
とっさになにも言い返せず、真綾は押し黙った。
「悩んでいるなら話してよ。それとも、こんなおばちゃんには話せない?」
「違うんです! 織恵さんは悪くありません。私が――」
立場もわきまえずに、軽率に鳴海と結婚した自分が悪い。
我慢していた涙がふいにポロリとこぼれ落ちる。
子どものこと。父親のこと。鳴海の将来のこと。
すべてをひとりで抱えこむには、真綾の許容範囲は小さすぎた。