剛腕SATな旦那様は身ごもり妻を猛愛で甘やかす~利害一致婚のはずですが~

「前職のカフェテリアもそれが原因で退職したんです。営業中に何度も父がお店に訪ねてくるようになって。当時住んでたアパートにも毎日来るようになったので、転職を機に引っ越したんです」

 警察関係の施設なら、父もおいそれと手出しできない。
 実際、訓練所の敷地には必ず、立番の隊員が常駐しているし、言わずもがな関係者以外の立ち入りが禁じられている。
 前職のように職場に迷惑がかからないのは魅力的だったし、真綾自身も安心して働けた。

「そうか。それは大変だったな」

 鳴海は真綾のこれまでの苦労に思いを馳せ、慰めの言葉をかけてくれた。

(優しい人だな)

 じわじわと鳴海の言葉が心に染み込んでくる。
 たとえ同情だとしても、擦り減っていた心が満たされていく、そんな気がした。
 けれど、喜びは一瞬にして過ぎ去っていく。

「もし父がまた他の人にご迷惑をかけるなら、また転職しないと」

 流石に正門は突破できないだろうが、毎日待ち伏せされても困ってしまう。
 職場を特定された今、アパートの場所が知られてしまうのも時間の問題だ。
 今日は鳴海のおかげでなんとかやり過ごせたが、いつもうまくいくとは限らない。
 父は真綾がどこへ行こうが、居場所を突き止め追いかけてくる。
 図らずも今日証明されたわけだ。

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