剛腕SATな旦那様は身ごもり妻を猛愛で甘やかす~利害一致婚のはずですが~
(ようやく慣れてきたのに)
上司の織恵や同僚の調理師達とも打ち解けて、ようやく仕事のリズムも掴んできた。
同僚は全員歳上だけれど、皆真綾を娘のように可愛がってくれる。
機動隊食堂で働く意義を見出し始めたそんな矢先の出来事だ。
短い間ではあったが、機動隊食堂で働けて本当に楽しかった。
真綾ははあっとため息をつき、肩を落とした。
新しい就職先は見つかるだろうか。
少ない軍資金で、手頃なアパートは借りられるだろうか。
きたる新生活に対する不安は次から次へと尽きない。
それに――。
真綾はチラリと鳴海の横顔を盗み見た。
芽吹き始めたばかりの淡い恋心がにわかにヒリヒリと疼きだす。
機動隊食堂からいなくなれば、鳴海は真綾のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。
(それは嫌かも)
真綾がぎゅっと目を瞑ったそのとき、それまで黙って何かを考え込んでいた鳴海が口を開いた。
「あのさ、驚かないで聞いてほしいんだけど……」
先ほどの鋭さがなぜか失われおり、妙に歯切れの悪い言い方だ。
「なんですか?」
鳴海はコホンとひとつ咳払いをした。
「俺と結婚しない?」
「え?」
真綾は思わず自分の耳を疑った。
(結婚?)
聞き間違いでなければ今、鳴海は結婚と口にしなかったか?
ふたりは友人でもなければ、恋人でもない。
食堂で少し会話するくらいのただの顔見知りだ。