隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。

 「誰が、誰を?」
 「坂本が、倉橋さんを」
 「……笑うところですか?」
 「いや、ガチ」
 「……」

 丹生さんの方を向きます。
 彼女も、あ〜と少し考えるようなそぶりをした後、頬を掻きました。

 「それはあたしも同意、かな」

 丹生さんまでもが、早川さんのとんでもない意見に同意してしまいました。

 今までの坂本くんとのやりとりを浮かべ、何度か検討してみますが、やはり揺るがない結論に至ります。

 「それはないと思います、絶対に」
 「ほ〜、その根拠は?」
 「……」

 無意識のうち、ボールを持つ手に力が入ります。
 またです。胸の奥をいいようのないもやもやが掠めました。

 「……私、昔の女にそっくりらしいので」
 「えっ!? 坂本って彼女いたの?」
 「はい。キヨコさんという方が」
 
 私の答えを聞いた早川さんと丹生さんが、微妙な表情で顔を突き合わせています。

 何かおかしな事を言ってしまったでしょうか……?

 丹生さんがこちらの様子を伺うようにして、口を開きます。

 「あの、倉橋さん……キヨコって多分、」
 「まあまあ! 落ち着きな、丹生ぅ! あくまで倉橋さんがそういうならさ、ちょっと試そうや」

 丹生さんの前にぬっと片手を出して、言葉を遮った早川さんがにっこり笑います。
 
 タレ目も相まって、ひと含みもふた含みもありそうで、身構えてしまいます。

 「倉橋さん、こっちきて」
 「?」
 
 手招きされるがまま、早川さんのすぐそばまで寄ります。

 すると、彼女は私の腕に自分の腕を絡ませ、さらに密着してきます。

 口元に手のひらを当てて、私の耳元へ──
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