隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。

 「──倉橋さんって、坂本と別れたん?」
 「ちょ、急に何言ってんの早川!?」

 軽快に続いていたラリーが、早川さんの一言によって途切れました。

 クラスの女子の中でも、長身でショートカットがよく似合うスポーツ少女、丹生(にぶ)さんが落としたバレーボールが、私の足元まで転がってきます。

 それを拾い上げて、軽く投げたボールをアンダーで丹生さんに返しました。

 「そもそも付き合ってないです」
 「付き合ってなかったの!?」

 綺麗に放物線を描いて、ボールは再び地面に落下します。ああ……我ながらいいパスだと思ったんですが……。


 現在、体育の授業。
 体育館内を天井から垂らされた大きなネットで半々にしきり、女子がバレーボールを、男子がバスケットボールをやっている真っ最中です。

 パス練習のペアが組めずあぶれた私を、近くにいた早川さんが迎えてくれたのです。

 優しい人かと感謝していたのですが、察するに、先ほどの質問がしたくて私を誘い入れたようです。

 「どこ情報ですか、それは。誤情報にも程があります」
 「どこってー……クラスの女子は皆噂してるよ。坂本が振られたって」
 「ちょっと、早川! ごめん、倉橋さん。この子、ゴシップに目がなくて」
 「大丈夫です。お気遣いなく」
 「なぁんだ。つまんないの〜。けどさ、少なくとも告白はされたんだよ……ねっ!」

 ぽん、と早川さんからボールが回ってきます。
 
 「されてないです」
 「されてないの!? あっ、ごめん」

 再び乱れたボールを早川さんが難なく拾い上げます。

 「少なくとも坂本は、めっっちゃくちゃ好きだと思うけ、どっ!」
 「──」
 
 早川さんの言葉が飲み込めず、ボールをそのままキャッチしまいます。しばらくボールを見つめ、改めて問いかけました。

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