離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ

 その衝撃で、お見合い写真が果菜の身体から放れ、バサバサっと床に落ちた。

「す、すみません!」

 果菜はすぐに、自分が向こうから来た人と出会い頭にぶつかってしまったことに気付いた。若干後ろによろめいた体をなんとか踏ん張って立て直すと、やってしまったと青ざめながら、がばりと勢いよく頭を下げた。

「あっ……うそっ」

 そして下を見て、お見合い写真が盛大にばらまかれていることに気付いて、ほとんど真っ青になった。

 床に落ちた拍子に開いてしまって中の写真が見えてしまっているものまである。かしこまった表情でこちらを見ている男性と目が合って、思わず息を呑んだ。

(や、やば、個人情報っ……!)

 果菜は慌てて床に這いつくばった。ぶつかった相手のことも忘れて素早くお見合い写真を拾い上げる。

 大急ぎで二冊、三冊……と拾ったところで、突然、横から何かがにゅっと突き出してきた。驚いてそちらを見ると、まだ落ちているはずの残りのお見合い写真がきちんと重ねられた状態に戻ってこちらに差し出されている。

 どうやらぶつかった相手が丁寧にも拾うのを手伝ってくれたらしい。スーツ姿の男性が膝を突いているのが見えた。

(うわああ、こっちもまずいっ)

「すみませんっ……ありがとうございます!」

 焦りで声を上擦らせながら勢いよくそう言った果菜は、ぺこぺこと頭を下げながら差し出されているそれを申し訳なさそうに受け取った。

「いえ、私も注意を怠っていて申し訳ありません」

 低くてハリのある落ち着いた声だった。
 言いながら男性がすっと立ち上がる。それを見た果菜は自分も慌てて立ち上がった。

「お怪我はありませんか?」

 そう声を掛けられて、果菜は始めて、その男性をまともに見た。
 人にぶつかってしまったことと、お見合い写真をばらまいたことで、軽いパニック状態に陥ってしまってそれどころではなかったのだ。

(ああ……まずい。なんかすごいイケメンで金持ちそうな、見るからにハイスペックの……え?)

 二人の視線がぶつかる。そして二人同時に、何とも言えない顔になった。

「だいじょう……ぶ、ですが……あ、芦沢専務……?」

 思わず、そう声に出してしまって、果菜ははっと口元を手で押さえる。
 ここで名前を出すのはまずかったかもしれない。

 果菜は相手のことを知っているが、相手は果菜のことを覚えていないかもしれない。何せ果菜はただの案内役だ。今まで数回、来社時に受付のところから社長室まで案内しただけ。

 そんなシチュエーションは腐るほどあるだろうし、いちいちそこで案内した女の顔なんて覚えている訳がない。
 だとすると、相手にとって果菜は、ただ一方的に名前を知っている得体の知れない女になってしまう。

「君はMIKASAの……?」

 しかし、果菜の予想に反して、遼はじっとこちらを見ながら、そう言った。

(えっ)
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