[慶智の王子・伊集院涼介の物語]冷酷弁護士と契約結婚
店の中は読書ができるくらいの明るさでカウンター席とテーブル席があり、かすかにジャズが聞こえる。落ち着いた雰囲気でレトロ感ある昭和の喫茶店のよう。


こじんまりとした店のカウンターには、50代くらいのニット帽をかぶったマスターらしき人が、コーヒーを入れている。


彰人に気付いたマスターはニッコリ笑う。


「おっ、あきちゃんいらっしゃい。好きなところに座って」


店の奥に席を取り、マスタ―と同年代と思われる品のある女性が注文を受けた。

「ここの店はね、雅の両親がやってるんだ。鈴音ちゃん、雅の事覚えている? 伊集院事務所創立記念パーティーで、僕たちと一緒にいたでしょう? おじさんね、早めにリタイアして趣味でやっていた喫茶店に専念しているんだ。さっきの女性は雅のお母さん。いいよね、夫婦仲良くってさ。そういえば鈴音ちゃん、元は伊乃国屋で働いてたんだっけ?」

「はい、私が働いていた時はもう西園寺京(さいおんじきょう)さんが社長でした」

「何かあったの、鈴音ちゃん?」

「えっ?」

「ずっと上の空だよ。僕でよければ話聞くよ」

「あ、あの彰人先生は何て......私と涼介さんの結婚の事どう聞いていますか?」

「もしかして契約結婚の事?その経緯は涼介から聞いたけれど、正直初めは驚いたよ。鈴音ちゃんも知っているでしょう、アイツ女性に対してとても冷めているって。だから絶対結婚はないと思っていた」

「私たちの利害が一致して。でももう、終わりみたいです」


ぽろぽろと鈴音は涙を流す。
< 31 / 35 >

この作品をシェア

pagetop