[慶智の王子・伊集院涼介の物語]冷酷弁護士と契約結婚
着替え終えた鈴音をダイニングテーブルへ座るよう促した。


「コーヒー飲めるか? カフェオレもできるが。好き嫌いが分からなかったから、適当に下のベーカリーでパン買ってきた」

「カ、カフェオレお願いします。何かお手伝いすることありますか?」

「コーヒーは俺が淹れるから、そこにある皿をテーブルへ持って行ってくれ。こっちの大皿に買ってきたパンを移して」


コーヒーの準備をしながら、彼女の事が気になりつい目で追ってしまう涼介。




カフェオレとコーヒーをテーブルに置き、ぶっきら棒に言う。


「好きな物食べろ」


鈴音は大好きなクロワッサンを皿に取り、両手を合わせる。


「いただきます。ありがとうございます」


カフェオレを一口飲み、クロワッサンを口にした。

パリッとしたバターたっぷりの生地の中には、程よい甘さのアーモンドクリームがたっぷり入っていて、思わず微笑みを浮かべる。


(へぇ~、こんな顔して笑うのか......)


いつもなら女性に対して寡黙になる涼介だが、彼女の『鈴を転がすような声』をもっと聞きたくなり、つい会話を進めてしまう。


「うまいか?」

「は、はい。このクロワッサンが一番好きなので」

「そうか。中に何か入っているのか?」

「アーモンドクリームが入っています。あまり甘くなくて美味しいです」


微笑む鈴音の口元についたクリームを涼介は親指で取り、そのまま舐めた。突然のことに驚き、顔を赤らめた鈴音はただ恥ずかしくて俯くことしかできない。そんな彼女を見て、涼介は悪戯っ子のような目つきで笑う。


(なぜだろう、コイツといると穏やかな気分になる。もっとからかいたくなる)


涼介は今までにない自分の知らない感情を落ち着かせるために、コーヒーを飲んだ。
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