騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
とはいえ、恐ろしいお父様を首都に召喚するだなんて恐ろしい事態を起こすきっかけを作ったのはそちらだ。私としては本当に迷惑極まりない。今の私の現状がバレてしまったらと思うと……恐ろしくて仕方ないな。何てことしてくれてるんだ一体この親子は。
「……伯爵。見捨てるなと仰ってますけど、それは婚約を白紙に戻せという事でしょうか」
「っ……」
もしそういう事であるならば……私は助ける気は全くない。大衆の面前であれば許してくれると思ったか。あいにくと私にこの手は通用しない。
私も彼との結婚は乗り気ではなかった。そもそも、お父様に言われて仕方なく忙しいスケジュールの隙間に時間を作りようやく婚約者である彼に会いに行っても、嫌味やら愚痴やらを聞かされる時間に早変わりする。
それに、どうせ結婚したところで剣の道を捨てさせられるに決まっている。それだけは、本当に嫌だった。だからどうするかと考えていたけれど、婚約破棄を言い出してきて嬉しく思っていた。もし剣を捨てて結婚しなくてはいけないのであれば、独身でいても構わないと思っていたから。
「婚約破棄を言い出したのはそちらですよね。それを白紙に戻せだなんて、勝手すぎじゃないですか?」
「そ、れは……」
それは伯爵も十分に分かっているはずだ。虫のいい話ではあるけれど、自分達の命が助かるためには婚約破棄を白紙に戻した方がいいと判断したのだろう。
言い淀んでいる状態を見て、これは正解だろうな。
「っ……おいてめぇ!!」
頭を床に押し付けられていた馬鹿嫡男がそう言ってくるが、口を開けばこんな罵声しか出てこないとは困りものだな。彼は私を怒らせる天才か?
「てめぇと言われる筋合いはない。伯爵、勝手にドレスを用意するようなこの馬鹿の再教育をお勧めします。あと、陛下がお父様にお会いしたかったようなので、謁見中にでも首都から離れる事をお勧めします。まぁ、お父様が逃がしてくれればの話ではありますが」
絶望している伯爵を助けられるほど私に余裕なんてものは一切ない。自分の身は自分で守れ。これは父からの教えだ。きっと伯爵もお父様から聞いた事はあると思う。
それにこの方だって元々騎士だった。家督を継ぐことになり引退したようだけれど。だから、例え剣が出てきたとしても一度防ぐくらいは出来るだろう。その後どうなるかは知らないけれど。
それよりも……このざわざわと視線が痛いこの状況を何とかしてほしい。上位貴族の伯爵家ご当主と嫡男が、ただの男爵家令嬢であり女性騎士である私に土下座だなんて、もう明日から社交界に出回る事だろう。
「では、私は仕事があるのでこれで失礼いたします」
「テレシアっ!!」
「伯爵、ご武運を」
「テレシア~~~!!」
手を伸ばして呼ばれているのは分かっているけれど、恥ずかしいにもほどがある。こんなところで叫ばないでほしい。それよりも自分が生き残るために何をすべきか考える方がいいような気がする。
面倒なやつらを視界から消したい思いで、私は会場を出た。見回りも業務に入っているのだからこの会場内にも警備の団員達も複数いるから問題ない。