騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
着いた屋敷は夜の為あまりよく見えないけれど、ロドリエス侯爵邸と同じ大きさくらいの建物。私達の他にも、馬車がいくつも並んでいる。けれど、馬車には家紋が描かれていない。もちろん、私達が乗ってきた馬車にも。
仮面を付けているのだから身分は明かさないのがルール。遊びではあっても、徹底しているところもある。
これから団長様達は追っている外国人商人を捕まえに行かないといけない。時間を見れば、この屋敷の外には近衛騎士団達が待機している事だろう。そして今から、近衛騎士団長を屋敷の中へ潜入させないといけない。
私は、足手纏いにならないよう大人しく言う事を聞いておこう。大丈夫、彼らは近衛騎士団だ。きっとすぐに捕まえて任務を完了すると思う。
「じゃあ、乾杯しようか」
「はい」
煌びやかなパーティー会場。何人もの女性や男性が楽しく談話している。近くにいたボーイが持つトレイに乗った飲み物を二つ、団長様が受け取り片方を私に渡してきた。
けれど、私の耳元で一言囁く。
「飲まなくていい」
私達は任務中だ。潜入なんて騎士になって初めてだけれど、一応研修は受けた。何かあってからでは取り返しがつかない事にもなる事もちゃんと習った。けれど……
「君はすぐに酔ってしまうからな。甘くなった君の姿は誰にも見せたくない」
「っ……」
こんな事を言われて正気でいられるわけがない。それに、お酒で酔ってしまうと言われて、以前やらかした事も思い出してしまう。ダメだ、私。そう、今は任務中、任務中なんだ。近衛騎士団の任務に参加させてもらってるんだ、ヘマなんてしようもんなら大変な事になる。
そう、これは任務、任務だ。
何とか正気を保ちつつ、カツンとグラスを軽く当てると、飲むふりをした。隣でクスクス笑い声が聞こえてきたような気もしたけれど、今はそれどころではない。
私達は、楽しんでいるかのように少し談話をしていた。私の方がぎこちなかったかもしれないけれど、何とか変に思われないように気を付けながら。
けれど、偶然聞こえてきた女性3人の会話に、耳を傾けた。
「わたくし、彼から懐中時計を頂きましたの」
「あら、あなたの瞳の色と同じ花の?」
「えぇ」
「まぁ! なんてロマンチックなの!」
そんな話で、盛り上がっていた。
瞳の色と、同じ花の懐中時計。それには、覚えがあった。そう、それは……隣の方が、忘れ物をした時。その忘れ物は、懐中時計。ずっと返せずにいたもの。
「瞳の色と同じ花の懐中時計、ですか?」
「あら、ご存じないの? 男性の方が相手の女性と同じ瞳の色をした花のデザインがされた懐中時計をプレゼントするのは、私と同じ時間を共に歩みましょう、という事を意味するの。すなわち、それは貴方を想っていますという事。ロマンチックでしょ?」
「まぁ! 素敵ですね!」
「でしょう? 羨ましいわ、私も殿方からそんな素敵なプレゼントをもらってみたい」
そして……私と同じ瞳の色、青色の花だった。
いや、まさか。そう思いつつちらりと隣の人の顔を見ると……私に微笑んでいた。その顔は、何を言っているのだろうか。
本当に、団長様の考えている事がよく分からない。
「顔が真っ赤だ。もう酔ったのかな? 少し休憩室で休もうか」
「……はい」