騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「本当にこれで良かったのか」
二人はクレイグの宿に移動して、宿のテーブルにパンを広げていた。学校の近くにあるパン屋で学生時代によく食べていたパンだ。
クレイグは王都の中心にある有名なレストランに行こうと誘ってきたが、今はとてもそんな高級料理を食べている場合ではない。
ひとまず状況を整理したくて、チェルシーはできるだけいつもと同じ行動をしようと思ったのだった。
「どれにする? どれも懐かしいな」
チェルシーの気など全く知らずにクレイグはパンを嬉しそうに眺めている。彼はここのベリータルトが大好きだったのだ。
テーブルの前にいるクレイグから離れて、ベッドに腰かける。
「あの、食事の前に一度整理してもいいかしら。まずクレイグは学校長とどんな約束をしていたの?」
「話があると言われただけだ。詳しいことは聞いていなかった」
「それで王都にきたの?」
「いや、違う。元々チェルシーに会いに来るつもりだった」
「私に……それは、ええと、プロポーズをするために?」
心臓を落ち着かせながら聞いてみる。信じられないことだが、彼は先ほどからそう言っているのだ。
「そうだ」
チェルシーの真剣な表情に気づいたクレイグはベリータルトを置くと、彼女の隣に腰かけた。
「やはり早かったか……?」
「その〝早い〟というのはどういうこと?」
そうだ。先ほども〝まだ九年〟などと言っていたのだ。クレイグの言葉を思い出して「九年というのは?」とさらに訊ねた。
するとクレイグは顔を赤くしながら
「俺たちが恋人になってから、まだ九年だろう」と答える。
「私たちが、恋人…………」
一度も彼を恋人だと思っていなかったチェルシーはますます困惑する。まだ、とか言っているが九年だ。
「それで十年というのは?」
「チェルシーの口癖だっただろう。十年たたないと信じられないと。十年後たったら本気だと信じると。貴族との結婚は特にありえないと言っていたし」
「……ああ……」
チェルシーは過去の自分を呪っていた。
どれもクレイグに言ったことじゃないのに! 難破男を撃退するための言葉を律儀に自分ごととして受け止めていたらしい。
図書館で迫ってきた男以外にも、学年一位の成績のチェルシーをからかうために迫ってきたりしていて、たしかに「十年後ね」とやり過ごすのは口癖のようになっていた。
二人はクレイグの宿に移動して、宿のテーブルにパンを広げていた。学校の近くにあるパン屋で学生時代によく食べていたパンだ。
クレイグは王都の中心にある有名なレストランに行こうと誘ってきたが、今はとてもそんな高級料理を食べている場合ではない。
ひとまず状況を整理したくて、チェルシーはできるだけいつもと同じ行動をしようと思ったのだった。
「どれにする? どれも懐かしいな」
チェルシーの気など全く知らずにクレイグはパンを嬉しそうに眺めている。彼はここのベリータルトが大好きだったのだ。
テーブルの前にいるクレイグから離れて、ベッドに腰かける。
「あの、食事の前に一度整理してもいいかしら。まずクレイグは学校長とどんな約束をしていたの?」
「話があると言われただけだ。詳しいことは聞いていなかった」
「それで王都にきたの?」
「いや、違う。元々チェルシーに会いに来るつもりだった」
「私に……それは、ええと、プロポーズをするために?」
心臓を落ち着かせながら聞いてみる。信じられないことだが、彼は先ほどからそう言っているのだ。
「そうだ」
チェルシーの真剣な表情に気づいたクレイグはベリータルトを置くと、彼女の隣に腰かけた。
「やはり早かったか……?」
「その〝早い〟というのはどういうこと?」
そうだ。先ほども〝まだ九年〟などと言っていたのだ。クレイグの言葉を思い出して「九年というのは?」とさらに訊ねた。
するとクレイグは顔を赤くしながら
「俺たちが恋人になってから、まだ九年だろう」と答える。
「私たちが、恋人…………」
一度も彼を恋人だと思っていなかったチェルシーはますます困惑する。まだ、とか言っているが九年だ。
「それで十年というのは?」
「チェルシーの口癖だっただろう。十年たたないと信じられないと。十年後たったら本気だと信じると。貴族との結婚は特にありえないと言っていたし」
「……ああ……」
チェルシーは過去の自分を呪っていた。
どれもクレイグに言ったことじゃないのに! 難破男を撃退するための言葉を律儀に自分ごととして受け止めていたらしい。
図書館で迫ってきた男以外にも、学年一位の成績のチェルシーをからかうために迫ってきたりしていて、たしかに「十年後ね」とやり過ごすのは口癖のようになっていた。