騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「それは彼らが本気じゃないから、かわすために言っていたのよ……貴族というか、彼らには婚約者がいたから」
「チェルシーは自分の魅力がわかっていないからだ」

 大真面目にクレイグは言うが、それはいわゆる惚れた欲目というやつではないだろうか。
 なるほど。彼は私のことが好きすぎて、彼らの告白が大の本気で、私も本気で返したと思ったらしい……。チェルシーはそう推測した。

(私のことが、大好き……?)

 自分で推測したことに、心臓が飛び出そうなほどバクバクしている。これは夢なのだろうか。

「あの、大変申し訳ないんだけど……だけど、話が見えない部分もあるから正直に言うわね。私、クレイグと恋人だと思ったことなかったの、今まで一度も」

 チェルシーの言葉に、先ほどまで口元を緩めていたクレイグは言葉を失った。

「実は今日の学校長との約束も結婚相手を紹介してもらうつもりだったの。相手がまさかあなただとは思っていなかったけど」
「な……に……」

 いつもあまり表情の変わらないクレイグだが、明らかに青ざめた。

「でもクレイグは……私と九年恋人だった、と思っているの、よね?」
「す……すまない」
「責めてるわけじゃなくて……。私たちなんだかすれ違っているみたいで」

 ぎゅっと硬く握られたクレイグの手にチェルシーはそっと自分の手を重ねた。

「ずっとチェルシーを隣で守ると誓った」
「…………それはまさか、いつかの図書館での話?」

 チェルシーが恋に気づいたあの瞬間、クレイグは愛の告白をしていたというのか。

「ええと……私は友人としてだと思ったわ」
「そうか……騎士にとってはプロポーズだった」
「そうなの……」

 宿にきまずい沈黙がただようから、チェルシーは次の質問にうつることにした。
  
< 16 / 19 >

この作品をシェア

pagetop