騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「それで、恋人になった後は心から信じてもらえるように、プロポーズまで律儀に十年待っていたということ?」
「そうだ……」

 散々クレイグの独りよがり行動に振り回されたわけだが、うなだれた姿を見るとすべて許せてしまうのだから、チェルシーも相当こじらせている。

「私が結婚を考えていたから、早くしようと思ってくれていたの?」
「そうだ……チェルシーは結婚相手を探していただけだったが」
「ふふふ」

 すれ違いの意味に気づいて笑えてきたチェルシーはひとつ疑問がわいた。

「それじゃあ、休暇のたびに会いに行っていた恋人は?」
「もちろん、チェルシーだ」

 なるほど。「可愛い恋人のためだものね?」を恋人からの甘えの言葉と受け取っていたらしい。
 クレイグはうなだれたままで、頬を緩めるチェルシーには気づいていない。

「でも、待って。どうしてすぐに学校を出ていったの? それなら一緒に食事でもデートでもしていてくれたら……」

 もうすこし恋人らしいことをしてくれれば、チェルシーだって片思いに悩まなくてもよかったのだ。
 
「時間がなかったんだ」
「まさか、学校にきてそのあと、そのまま帰っていたの?」
「ああ。休暇は一日しかない」
 
 チェルシーもさすがにそれは笑えなかった。学校に立ち寄った後に、恋人と会って宿泊でもして帰っているのだと思っていたからだ。彼の住む場所の遠さを思い出し、もっと身体を大切にしてほしいと怒りさえ出るほどだ。
 
「一目会えるだけでよかった。回復薬を飲むと身体が回復した……いや、違うな、チェルシーと会うと疲れが飛ぶ」
「…………」

 休暇のたびに会いにきてもらえる恋人がうらやましかった。その恋人が自分のことで……忙しくても、一目会うだけで……?
 先ほどから答え合わせを続けていて、何も実感すら湧いていなかったのに。チェルシーは途端に恥ずかしさと嬉しさがこみあげる。
< 17 / 19 >

この作品をシェア

pagetop