騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う

「チェルシーすまない」
  
 チェルシーの真っ赤な顔に気づいていないクレイグはチェルシーに向き直ると頭を下げた。

「先ほど君の縁談話を壊してしまった」
「でもあれはどちらにせよ相手があなただったのだし……」
「しかし、すまなかった。勝手にチェルシーの恋人だと舞い上がっていて、君が早く一緒になりたいと思っていたことも嬉しくて」
「……クレイグ」

 顔を上げるとクレイグは真っすぐチェルシーを見つめた。

「だけど俺の結婚相手はチェルシーしか考えられない。まだ九年だが、一年後も……いや、十年後も確実にチェルシーのことを愛している自信がある。結婚相手を探しているのなら、候補として考えてくれないだろうか」
「クレイグ、私……」
「チェルシーが保健医として頑張っていることも知っている。第一部隊への異動も決まった、だから――」
「待って、クレイグ。言葉が足りなかったのは私も同じだから」

 いつも堂々としているクレイグの瞳が不安に揺れているのを見ると、愛しさがこみ上げて、チェルシーは口を開いた。

「私もずっとクレイグが好きだったの。恋人がいると思っていても諦められないくらい、九年間ずっと」
「ほ、本当か」

 そう言うと同時にチェルシーはぎゅっと抱きしめられる。厚い胸板に顔を押し付けられて苦しくて胸をたたけば、初めて見る表情でチェルシーを見つめるクレイグがいた。

「すまない。こういうときは抱きしめるべき、だと教わったんだが、力の加減を間違ってしまった」

 その言葉に、せき込んでいたチェルシーも思わず吹き出す。

「何それ……でも、そうだね。クレイグは恋人への愛情表現を何も知らなかったんだね」
「それは、すまない……」
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