恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで

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女が墨屋で働きながら6年という
歳月が過ぎていた。

10歳になる頃から旦那様のお屋敷で
働いていた為、家事や掃除は言わずとも完璧にこなす女は亭主の人の良さで少しずつ字の読み書きも教わった。

口が聞けなくても文字を書きお客様と
会話が出来るようにまでなり、20歳を迎える頃には元々美しい容姿はさらに
磨かれていた。


ある満月の綺麗な夜、もう2度と会えることのない男性へ、自分の想いを書き留めると引き出しに閉まっておくとにした。

想いは誰にも伝えられず、それでも
ずっと旦那様の事が忘れられない‥‥

今後生きていてもあの人ほど恋焦がれる人に出会うことはない‥‥

会えなくてもこの想いだけは死ぬまで
ここへ閉まっておこうと文字にして
沢山書き留めた。



墨屋の主人は文句一つ言わず働く女の想いを偶然にも開いていた引き出しの中
に見つけてしまったのだ。

今では自分の娘のように思っている女の幸せを願い、代わりに秘密で殿方を探すことにした。

以前女が身投げをしていた場所へと出向いたり、手紙の内容に記された男性像を見かければ、尋ねたりしながらひたすら探した。


そして半年が過ぎたある日、主人がいつものように、店先に水をまいていたところ目の前の茶屋から出てきた男性に驚き桶を落とした。


似ている人なんて沢山いて、まさかとは思ったが優しい眼差しと目尻にあるホクロの特徴に慌てて走って呼び止めたのだ


突然のことで驚いた男性だったが、
主人の話を聞いているうちに、
瞳から大粒の涙を流したという。


あの日待ち続けた女性が書いた手紙を
全て内緒で渡すと、男性はそれを読み
また倒れ込むようにして涙を流した。



今宵もう一度あの時の場所で女を
待つと伝言を主人に残した男性は、
手紙を大事に懐へしまいその場所を後にした。


やっとあの子の大切な人を見つけたよ‥‥‥これであの子の長年の苦労も
本当に報われるだろう‥‥


店に戻った主人は掃除を続ける娘へ
約束の場所へとお使いを頼んだ。


そしてそこへ向かわせる前に、今まで働いてくれたお礼の代わりに家にある
一番仕立ての良い着物を着させた。


なんのことか分からない女を優しく抱きしめた主人は笑顔で女を見送った。
2度とここへ戻ってくることはないだろうが幸せにおなりと‥‥



一方、女は訳もわからず夕刻を過ぎた頃
主人に言われた場所へ向かうと、
美しい川が流れる河原に立つ男性に
言葉を失った。


「‥‥ﾂｯｯ‥！！」


産まれて初めて恋い焦がれた男性を
6年経った今でも見間違えるわけもなく、瞳から涙が溢れ出す。


足が震えて動けない女の元へ気づいた
男性が近付くと、何も言わずに愛しい女を強く抱き締めた


『‥‥会いたかった。忘れた日など
　一度もなかった程に‥‥。』


「ツッッ‥‥ｳｳ‥」


女も同じことをずっと思っていた‥‥。
声が出なくとも、旦那様にしっかりと抱きつき離れていた時間を埋めるように
2人は満月の月の下、唇を何度も重ねた


身分が違う自分が声をかけることさえ
許されなかったあの日々の中で、素敵な
旦那様に恋をした‥‥。


今も腕の中にいる事が夢ではないかと思うほど2人が待ち焦がれた日でもあった



『二度と離さない‥‥こうしてまた
　君と巡り会えたのだから。』

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