恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
『スマホ』

「えっ?」

『貸して?』


私のスマホを渡さないと引っ込めて貰えそうにないその手に、断ることも出来ず
素直に渡すしかなかった。


綺麗な指先が掌に触れただけなのに恥ずかしくなった私は、その場を離れたくて
買ってきた荷物を冷蔵庫にしまうことにした


馬鹿……。
私はただのバイト‥‥‥
ちゃんと割り切りなさいよ‥‥。


昔は先輩と後輩だったけど、
今は雇い主とアルバイト。


偶然再会はしたけど、縮まることのない
知らないふりをした関係を本当に続けて
いけるだろうか‥‥


『はい、これ』

「えっ?…」

『俺の番号を入れておいたから。』


雇い主なら知っておきたいだけって
分かってるのに、そんなことが馬鹿みたいに嬉しくて、この気持ちがバレないように胸の前でスマホを握り締める


『今日みたいな時は車を出すから
 必ず呼ぶこと。』


「…はい、ありがとうございます。」


どうしよう……。今顔あげたら絶対赤い
から部屋が薄暗くて少し助かる


『‥あと‥敬語使わなくていいから。』


ドクン


私の頭に自然に置かれた手があの時のようにそこを優しくくしゃりと撫でる


「す‥少しずつ慣れるようにします。
 あ…あと…夕飯何がいいですか?」


そんなにすぐには変われない‥‥。
今は雇い主だけど、私の中ではまだ
やっぱり彼は先輩なのだ。
 

『立花に任せるから何でもいいよ。
 嫌いなものはないから。』


ドクン


そう思いたいのに、もう一度頭に軽く触れた手に、この人の事がどうしようもなく好きという気持ちが溢れそうになる


ダメ‥‥‥。気持ちを切り替えてお仕事をしなきゃ‥‥


一人暮らしもしてたしかなり節約はしてたからよく料理はしてたけれど、そんなに多くの料理は作れない。


今まではバイト先で余ったパンとか、
居酒屋でのまかないや、余った食材もらいながら生活してたから本当に助かっていた。


プルルルル


『あ‥‥ごめん、電話でていい?』
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