婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 紅真は全く気にせずに人の間を抜け、大広間に飾られるとある作品の前に立った。
 今回紅真が生けたこの展示会の一番の目玉となる作品だ。

 本来は家元の作品が飾られるべきなのだが、今回は紅真が任された。


「かわいい……!」


 言葉を失うとはこのことだった。
 夏の代表的な花、向日葵が一際目を引く。
 その周りを真っ白なレースフラワーが囲んでいる。
 向日葵に向かい合うようにあるのは、菜の花だった。

 菜の花は春の花で向日葵は夏の花だが、違和感は全くない。
 むしろイエローが見事に調和していてパッと華やかな明るさがある。

 あまりの可愛らしさに、特に女性たちの写真を撮る手が止まらない。


「すごくかわいいね!」
「これは菜花に向けた花なんだ」
「私に……?」
「誕生日の時は気合い入れすぎて失敗したからもっとシンプルにしてみた」
「あの時はごめんね……」


 菜花は恥ずかしそうに俯く。
 紅真はふっと微笑んだ。


「向日葵の花言葉、知ってる?」
「えっと、あなただけを見つめる、だっけ……?」


 向日葵は太陽の方を向いて咲くことから、そのような花言葉がある。


「そう、あなただけを見つめる。僕はいつも菜花だけを想っているよ」
「紅真くん……」
「レースフラワーはベールをイメージしてみたんだ」


 そう言われると、向日葵と菜の花を囲うレースのように見えてくる。
 まるで花嫁のような。


「――菜花」

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