婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 紅真は跪き、ポケットから小さな箱を出した。
 その箱の蓋が開き、大粒のダイヤモンドが輝くリングが見えた時、自然と菜花の目から涙がこぼれていた。

 さっきメイク直ししたばかりだというのに。


「僕と結婚してください」
「っ、はい……っ」


 きゃあああという黄色い歓声が沸き起こり、大勢の人に見られていたことを思い出す。
 菜花は恥ずかしくてやたらとキョロキョロしてしまったが、紅真は気にすることなく菜花の薬指にリングを嵌めた。

 すると、周囲からは「おめでとう!」という声と拍手が沸き起こる。


「こ、紅真くん、嬉しいけど恥ずかしい……」
「でも、これで菜花は僕のものだって知らしめられたでしょ?」


 紅真は悪戯っぽく微笑んだ。
 どうやら最初からみんなに見せつけるつもりだったらしい。


「――わかった? 僕が愛しているのは菜花だけだってこと」


 その言葉は菜花に向けられたものではなかった。
 紅真の視線の先には、悔しそうにわなわなと唇を震わせる華枝の姿があった。


「……っ、何よ。政略結婚のくせに……その女のどこがいいのよっ」


 華枝は人目も憚らず、ヒステリックに叫ぶ。


「華枝、君に言ってもわからない。華枝とはこれからも仕事仲間としては付き合っていきたいけど、菜花を傷付けることをするなら容赦しないから」
「……っ!」

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