婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
それなりに緊張して会議室に入ったため、少し上擦った声になってしまった。
どう切り出そうかと悩んでいたら、赤瀬の方から口を開く。
「ちょっとさ、俺の話をしてもいいか?」
そう言われて少し驚きながらも「はい」と答える。
赤瀬は「ありがとう」と言って、穏やかな口調で話し始めた。
「自分で言うのも難だけど、俺は昔から器用な方だったんだ。いずれはお前が会社を継ぐんだって言われ続けてプレッシャーに感じることもあったけど、勉強するのも仕事するのも嫌ではなかった。どこかで俺はできるやつなんだって過信してたんだよな」
赤瀬は何でも器用にそつなくこなせるのは事実である。実際部長になるまでスピード出世だった。
「また周りが褒めて持ち上げてくれるもんだから、俺も調子に乗ってた。堂々と社長の息子として入社して、いずれは俺が経営のトップに立って会社をもっと成長させる。本気でそう思ってたんだよ、バカだよな」
「そんなことないです」
「だから、春海が自分の身の上を隠していたと知った時、すごく驚いた。この子はコネなんか使わず、自分の実力だけで内定をもらったのかって」
菜花は何だか恥ずかしくなってモジモジしてしまった。
「そんな大袈裟なことじゃないですよ……みんなと同じことをしただけです」
「でも、その普通を俺はしなかった。与えられたものを享受して当然だと思っていた。だからこそ、春海の芯の強さに惹かれたんだ」