婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
赤瀬は真っ直ぐ菜花の瞳を見つめる。
菜花を見つめる瞳はとても優しく、愛おしそうだった。
「部長……」
菜花の心がきゅうっと締め付けられる。
赤瀬が本気で想ってくれる気持ちが伝わってくるからこそ、その気持ちに応えられないのが苦しい。
「そんな顔するなって」
赤瀬は笑いながら、ポンと菜花の頭を撫でた。
「正直春海の婚約者が千寿さんって知った時は結構悔しかったけどな。よりにもよってあいつかーって」
「そうなんですか?」
「実は高校の時華道部だったんだよ。それなりにセンスあると思ってたけど、千寿紅真の花を見て絶対に敵わないって思わされた。だから負けたくなかったんだけどなー」
赤瀬は冗談めいた口調だったが、その中に隠し切れない悔しさが滲んでいる。
「ああいうやつを天才って言うんだろうな。元々持ってるものが違うっていうか」
「確かに紅真くんには才能がありますが、それだけではないですよ」
菜花は真面目な顔で言い切った。
「ずっとひたむきに努力し続けているから、あんなに素敵なお花が生けられるんです。私は紅真くんのそういうところが大好きなんです」
紅真は才能を伸ばす努力を怠らなかった。
だからこそ紅真の花は誰の心にも響き、感動する。
「……最初から俺の入る隙はなかったってことなんだな」
赤瀬は切なそうに笑いながら肩をすくめる。