不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
変化
「ちょっと待った。このスロープの段差はなんだ?」
図面をチェックしに来た黒瀬さんが後ろから覗き込んで、私の手を止めさせた。
(またなの?)
彼の指摘は勉強になるから有り難いものの、こんなに中断していたら間に合わない。
それにこの部分に問題は感じなかったので、ついふてくされたくなる。
「……石を貼るので段差ができます」
昂建設計ではここまでチェックは厳しくなかった。
でも、黒瀬さんは私の答えに納得せず、さらに質問してくる。
「なぜ石を貼る?」
「滑り止めと見栄えです」
「見栄え、ね。勾配は……四度か。1/15を取れてないな」
スロープ勾配は1/15以下が望ましいのは知っているが、そのためにはスペースが足りない。私は最大限で傾斜をゆるやかにしたのだ。
今までも同じ設計をしたことがあるものの、誰からも指摘を受けたことはない。
(完璧主義なのはわかるけど、こんな調子じゃ、間に合わなくなるわ)
「ちゃんと基準はクリアしています!」
なにが悪いのかと不満げに言うと、黒瀬さんはいつものように口端を曲げた。でも、めずらしく目が笑っていない。
彼は腕を組み、軽い口調で言った。
「ふぅ~ん。昂建設計では机上の空論を教えてるってわけか。だから、コンペに勝てないんだよ」
「なっ!」
小馬鹿にされて、カッと頭に血が上った。
私のことだけじゃなく自社のことまでけなされて猛烈に腹が立つ。
いくら優秀な建築家といえども、そこまで言われる筋合いはない。
私はいらついて黒瀬さんをにらんだ。
「たかが0.2度の違いでなんでそこまで言われないといけないんですか!」
(やっぱりこの人嫌い!)
仕事熱心で考えていたよりいい人かもと思いかけていた自分が腹立たしい。
でも、私の反発にも黒瀬さんは皮肉な笑みを崩さず、尋ねてきた。
「これはなんのためのスロープだ?」
「もちろん車椅子やベビーカーのため……」
「そうだ。わかってるけど、わかってないんだな」
肩をすくめてあきれた表情をされるから、むっとする。
(そんなにこだわるところ?)
上から目線なのもむかついた。そりゃあ、彼からしたら、私はひよっこだろうけど。
「だから、ちゃんとバリアフリー法の基準は守ってます!」
「最低限の、な。……まぁ、いい。ちょっとついてこい」
黒瀬さんはいきなり車のキーを取り、外出しようとする。
時間がないのに出かけてる暇はないと思い、私は呼び止めた。
「ちょっと、設計はどうするんですか!」
「そんなに時間はかからない。池戸、少し出てくる」
「はい、いってらっしゃい」
苦笑している池戸さんに軽く告げて、黒瀬さんはさっさと外へ行ってしまう。
私はしかたなくその後を追いかけた。
図面をチェックしに来た黒瀬さんが後ろから覗き込んで、私の手を止めさせた。
(またなの?)
彼の指摘は勉強になるから有り難いものの、こんなに中断していたら間に合わない。
それにこの部分に問題は感じなかったので、ついふてくされたくなる。
「……石を貼るので段差ができます」
昂建設計ではここまでチェックは厳しくなかった。
でも、黒瀬さんは私の答えに納得せず、さらに質問してくる。
「なぜ石を貼る?」
「滑り止めと見栄えです」
「見栄え、ね。勾配は……四度か。1/15を取れてないな」
スロープ勾配は1/15以下が望ましいのは知っているが、そのためにはスペースが足りない。私は最大限で傾斜をゆるやかにしたのだ。
今までも同じ設計をしたことがあるものの、誰からも指摘を受けたことはない。
(完璧主義なのはわかるけど、こんな調子じゃ、間に合わなくなるわ)
「ちゃんと基準はクリアしています!」
なにが悪いのかと不満げに言うと、黒瀬さんはいつものように口端を曲げた。でも、めずらしく目が笑っていない。
彼は腕を組み、軽い口調で言った。
「ふぅ~ん。昂建設計では机上の空論を教えてるってわけか。だから、コンペに勝てないんだよ」
「なっ!」
小馬鹿にされて、カッと頭に血が上った。
私のことだけじゃなく自社のことまでけなされて猛烈に腹が立つ。
いくら優秀な建築家といえども、そこまで言われる筋合いはない。
私はいらついて黒瀬さんをにらんだ。
「たかが0.2度の違いでなんでそこまで言われないといけないんですか!」
(やっぱりこの人嫌い!)
仕事熱心で考えていたよりいい人かもと思いかけていた自分が腹立たしい。
でも、私の反発にも黒瀬さんは皮肉な笑みを崩さず、尋ねてきた。
「これはなんのためのスロープだ?」
「もちろん車椅子やベビーカーのため……」
「そうだ。わかってるけど、わかってないんだな」
肩をすくめてあきれた表情をされるから、むっとする。
(そんなにこだわるところ?)
上から目線なのもむかついた。そりゃあ、彼からしたら、私はひよっこだろうけど。
「だから、ちゃんとバリアフリー法の基準は守ってます!」
「最低限の、な。……まぁ、いい。ちょっとついてこい」
黒瀬さんはいきなり車のキーを取り、外出しようとする。
時間がないのに出かけてる暇はないと思い、私は呼び止めた。
「ちょっと、設計はどうするんですか!」
「そんなに時間はかからない。池戸、少し出てくる」
「はい、いってらっしゃい」
苦笑している池戸さんに軽く告げて、黒瀬さんはさっさと外へ行ってしまう。
私はしかたなくその後を追いかけた。