不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
 彼は事務所横の駐車場に停めてあった車に乗り込もうとしていた。
 近づいた私に、目で乗れと合図する。

「どこに行くんですか?」
「行ったらわかる」

 私がシートベルトを締めたのを見て、発進させた。
 すぐ着くと言った通り、十五分ほど車を走らせて停まったのは緑あふれる前庭を持つ建物の前だった。
 看板を見ると、老人ホームのようだ。
 車を降りた黒瀬さんはちょうど通りかかった従業員らしき人とにこやかに挨拶を交わした。

「あら、黒瀬さん、こんにちは」
「また来ました。お邪魔します」
「皆さん、大歓迎だわ。ごゆっくり」

 どうやら何度もここに来ているらしい。
 建物を見ると、黒瀬さんの設計したものに見えた。彼の設計は独特だからすぐわかる。
 案の定、彼は言った。

「ここは昔、俺が設計したものなんだ」
 
 自分のすばらしい設計を見せつけるつもりかと私はひそかに溜め息をついた。
 今日は快晴だったので、庭には高齢者の方たちが出てきて、散策したり、車椅子で移動したりしていた。
 花壇には春の花が咲き始め、小道沿いに生えているアジュガの青紫が目にも鮮やかで、のんびりと穏やかな光景だ。

「こっちだ」

 黒瀬さんが向かったのは中庭に高台が作ってあるエリアだった。

「黒瀬さん、こんにちは」
「諒ちゃんじゃない。また反省に来たの?」
「今日は可愛い子を連れてきたのね。妬けるわ~」
 
 おばあさんたちがわらわらと寄ってきた。
 みんな親しげに黒瀬さんに声をかける。

「あぁ、可愛い彼女に勉強させようと思ってな。ばあちゃんたちも元気そうでよかった」

 明るく笑った彼はひとりひとりに視線を合わせ、答えた。
 黒瀬さんって、おばあさんにもモテるのねとひそかにおかしくなる。
 根本的に女たらしなのかもしれない。
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