不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
 彼の愛が身に染みたところで、黒瀬さんが説明してくれた。
 私はくったりして彼の腕の中に囲われたままだったけど。

「俺はどうしても建築家になりたかったんだ。でも、神野リゾート開発を継がせたい親父とさんざん衝突して、結局、親子の縁を切られた」
「そんな……」
「もうずいぶん昔の話だ」

 順風満帆な人生だと思っていた黒瀬さんにそんな過去があったとは驚きで、私は思わず彼の腕に手を添わせる。
 黒瀬さんは薄く笑って、私の頬を撫でた。
 神野家では黒瀬さんの話はタブーで、綾香さんは兄と呼ぶことさえできずに、諒くんで落ち着いたらしい。
 先日のコンペは綾香さんが黒瀬さんに神野リゾート開発の仕事を受けてほしいと願い、参加したものだった。親子の和解を目論んで。

「それじゃあ、あのコンペは出来レースだったんですか?」

 山田主任の言った通り、結果は決まっていたのかと、つい不満げに聞いてしまう。
 そういうタイミングではないと思うけど、やっぱり悔しかった。

「いや、逆にこれ以上ないほど公正に審査されたよ。親父は俺の案を使いたくなかっただろうし」
「そうなんですね。よかった」

 ほっとしたら、なぜか「かわいいな」と額にキスされた。
 赤くなって、額を押さえる。

「な、なんで?」
「そうやって、仕事に一生懸命なところも好きだ」

 そんなことを言われるから、ほてりが収まらない。
 ニヤニヤしていた黒瀬さんだったけど、表情を改めて、続きを話した。

「俺が家を出てから、残された綾香はプレッシャーで不眠症になってしまった。しかも、この間は、親父から急にお見合いをしろと言われて精神不安定になって、うちに来たんだ。翌日、カウンセリングに連れていって、なんとか落ち着いてくれたが」
「そうだったんですね……」

 黒瀬さんが大変なときに、私は盛大に勘違いをして落ち込んでいたのが恥ずかしい。
 私の考えていることを察したようで、黒瀬さんは苦笑して言った。

「まさか瑞希にとんでもない誤解をされてるとは思いもよらなかったけどな」
「ご、ごめんなさい」
「いや、気がつかなかった俺が悪い。君がどう思うか考慮すべきだったし、先に説明しておけばよかったんだ」

 甘く見つめられ、胸がいっぱいになる。
 その声はあのとき聴いたのと同じ優しいものだった。
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