不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

好き

 ふいに想いがあふれて、伝えたくなる。
 黒瀬さんを責めたくせに自分の想いは言ってなかったから。

「黒瀬さん……」
「ん?」
「好き」

 そのときの彼の反応は見ものだった。
 彼は額に手を当て、顔を隠した。でも、指の隙間から、赤くなっているのが見えた。
 なんと照れてるらしい。あの黒瀬さんが。
 それは老人ホームで見せた表情と似ていた。

「あー、うん、俺も好きだ」

 照れながらもそう言ってくれて、うれしくなった私は彼にしがみついた。

「老人ホームでも照れてましたよね? なんでですか?」

 私が聞くと、彼は目を逸らしながらも教えてくれた。

「瑞希が褒めてたシータウンは前職で俺が携わったものだったんだ。あれを見て将来を決めたなんて、建築家冥利に尽きるよな」
「あれも黒瀬さんの作品だったんですか!?」
「もちろん、全体を担当したわけじゃないけどな。まだ経験も浅いうちだったし」

 昔から彼の建築に惹かれていたのを知って、驚いた。
 そう言われてみれば、エントランスは黒瀬さんの作品の特徴が出ている。

(どうして気づかなかったんだろう?)
 
 さらに黒瀬さんが続けた話に今度は私が赤くなった。
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