不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「瑞希は、俺の設計が本当に好きだよな。新入社員のころ、連れてこられたコンペで俺のプレゼンを絶賛してくれたの、覚えてるか?」
「新入社員のころ?」

 まったく覚えがなくて、目をぱちぱちさせる。

「やっぱり覚えてなかったか。目をキラキラさせて『私もこんな企画を立てたいです!』と言ってくれたんだ。前職時代最後の案件だったが」
「え、あーっ! あのときの! あれって黒瀬さんだったんですか!?」

 ワクワクするプレゼンに感動して、思わずその担当者を捕まえて興奮気味に話しかけてしまったことを思い出す。そういえば、やけに格好いいお兄さんだった。

(なにしてるの、私!)

 今さらながら恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

「俺はあれから瑞希が気になって、どんなものを作るんだろうとついチェックしてた。そうしたら、センスがいいから、今回来てもらったんだ」

 やたらと私にかまってきたのはそういうことだったのかと疑問が解けた。
 最初に絡んでいったのは私のほうだったというのに、軽い男と勘違いしていて、申し訳なく思う。

「それなのに、瑞希はずっとつれなかったよな」

 黒瀬さんは私の赤くなっているだろう頬をつついて言った。
 その少し拗ねたような表情が新鮮でかわいいと思ってしまう。
 そして、ずいぶん彼のことを誤解していたことを反省する。
 これも黒瀬さんの言ってた独善的な思い込みなんだろう。

「ごめんなさい。これからは設計と同じで思い込みに囚われないようにします」
「ははっ、そんな硬い言葉じゃなくて、『黒瀬さん、大好き』でいいんだぞ?」
「もうっ! そういうことすぐ言うから、軽いって思っちゃうんです! ……でも、大好きです!」
「……お前は俺を煽るのがうまいな」

 勢いで言うと、黒瀬さんはいつものように薄い唇の片端を上げて、悪い男の笑みを見せた。
 私はしまったと思うものの、あとの祭りだ。
 案の定、彼は熱い口づけをくれたあと、また私を甘く蕩かすのだった。
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