不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

間に合うの?

 黒瀬さんは思ったよりスパルタで、私にガンガン設計させ、容赦なく直しを入れる。その意図は明確だったが、たまにわからないことを聞くと、ニヤリと口角を上げて教えてくれた。
 彼が手を入れたところはとたんに美しいものになり、経験値やセンスの違いを感じる。

(黒瀬さんに見くびられたくない……!)

 そんな思いで、私は必死で頭を働かせ設計した。
 連日コンビニおにぎりをデスクで食べながら、二十二時過ぎまで働く。

「そろそろ帰れよ」
「もうちょっと切りのいいところまでやります」

 あまり遅くまでやっていると、黒瀬さんに帰りを促される。
 そういう黒瀬さんはこの事務所の二階に住んでいて、いつも私より遅い。通勤時間がないのがうらやましかった。
 着工を遅らせるわけにはいかないので焦るけど、設計はやってもやっても終わらない気がした。

「あんまり焦るな。そこ間違ってるぞ?」

 ポンと頭に手を乗せられて、私はハッとして視線を上げたら、黒瀬さんが私を穏やかに見つめていた。

(気軽に触らないでほしいわ)

 そう心の中でぼやきながらも、指摘されたところを見るとたしかにイージーミスをしていた。焦るあまりチェックがおろそかになっていたのだ。
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