大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【無人駅】

時は、10月4日の午前6時半頃であった。

またところ変わって、富山県朝日町泊《えっちゅうあさひまちのとまり》の漁港の中にある魚市場《いちば》にて…

魚市場《いちば》の中では今朝水揚げされた魚介類のセリが行われていた。

その中で、私は戦時中にダフ屋をしていた漁師のおっちゃんと会って話をしていた。

おっちゃんと私は、魚市場《いちば》の裏にいた。

私は、パスケースに入っている写真をおっちゃんに見せた。

おっちゃんは『まちがいない…このじいさんだよ〜』と答えた。

私は『そうですか。』と言うたあと、パスケースをショルダーバッグに収納した。

その後、私はおっちゃんにくわしい話を聞いた。

「おっちゃんは戦時中どこにいたの?」
「ナオエツにいたよ。」
「ナオエツ。」
「写真に写っていたじいさんは、チランから脱走したあと貨物列車に乗ってナオエツへ来たよ。」
「貨物列車。」
「ああ。」

私は、万年筆を使って手帳にメモ書きをしながら『チランから貨物列車に乗ってナオエツへ来た。』と言うたあとおっちゃんに言うた。

「おっちゃんは、太兵衛《たべえ》とどこで会ったの?」
「ナオエツの港だよ。」
「ナオエツの港…」
「ナオエツからサドガシマのオギまでフェリーに乗った…オギからアイカワまでは一緒に行った。」
「アイカワ…おっちゃんはそこまで太兵衛《たべえ》と一緒に行ったのですね。」
「ああ、そうだよ。」
「アイカワから先は?」
「おっちゃんはアイカワまでしか行かなかった。」
「アイカワから先は?」
「そこから先は、別のダフ屋に引き継いだ。」
「別のダフ屋に引き継いだ?」
「ああ。」

…ってことは…

アイカワから先は…

別のダフ屋と一緒に行ったと言うこと?

……………………

それからまた2時間後であった。

またところ変わって、国鉄越中宮崎駅の待合室にて…

私は、待合室にいた80代の男性と会って話をしていた。

その男性もまた、戦時中にダフ屋をしていた。

元ダフ屋の男性は、私に対して太兵衛《たべえ》を連れてラガン(チョンジン)の港へ行ったことを言うた。

「ラガン…ラガンと言うたら…(韓)半島の北東の端っこ…ですよね。」
「そうだけど。」
「ラガンに到着したあとは?」
「そこからうーん。」
「おっちゃん…おっちゃん…」
「ああ、思い出した〜」
「思い出した。」
「たしか…コクガへ行ったよ。」
「コクガ…コクガと言うたら、マンシュウ…ですよね。」
「そうだよ。」
「ラガンは、ソ連と国境を接している街ですが…なんでマンシュウへ移動したのですか?」
「なんでってあんた…昭和12年に有名女優が男と一緒に国境線を強行突破した事件があったから国境の監視が厳しくなったのだよ。」
「そう言うことか…」
「それともう一つ、アムール川(黒龍江)は、冬のあいだは分厚い氷でかたまっているので歩いて渡ることができる…」
「…と言うことは、太兵衛《たべえ》がコクガへ来たのは昭和19年の暮れから昭和20年の2月あたりだったと言うこと?」
「そうだよ。」

おっちゃんは、ひと呼吸ついたあと私に言うた。

「それともう一つ、写真に写っていたじいさんは…あれたしか…かわいい女の子を連れていたな〜」

それを聞いた私は、おどろいた声で言うた。

「ええ!!太兵衛《たべえ》さんはひとりで来たのじゃないのですか!?」
「あたりまえだよ…」
「おっちゃん、太兵衛《たべえ》と一緒にいた女の子はいくつぐらいのコだったの?」
「たしか…19か20ぐらいのかわいいコだったよ…女の子は、親が決めた結婚をするのがイヤ…日本がイヤだと言うてたよ〜」
「…ってことは、太兵衛《たべえ》がユーカイした…と言うこと?」
「違うよ。」
「違う?」
「太兵衛《たべえ》と一緒にいた女の子は、自発的に家出したのだよ。」
「自発的に家出した?」
「そうだよ。」
「…てことは、」
「だから、家出した女の子をワシラが買ったと言うことだよ。」
「女の子を買った!?」
「そうだよ。」
「それで、おっちゃんが買った女の子はどこで太兵衛《たべえ》さんと会ったの?」
「どこって、ラガンだよ。」
「おっちゃんが買った女の子は、その前はどこにいたの?」
「どこって、ウラジオストクだよ。」
「ウラジオストク?」
「ウラジオストクで暮らしているヤポンスキーのブローカーのところにいた。」
「ヤポンスキーのブローカー?」
「そうだよ。」
「そのブローカーは、ラガンにいつも来ていたの?」
「そうだよ。」
「おっちゃんは、ラガンに着いたあと太兵衛《たべえ》に女の子を紹介したのだね。」
「ああ。」
「その後、コクガへ行った。」
「そうだよ…その後は見ての通り…太兵衛《たべえ》は女の子を連れてアムール川を越えた…」
「…と言うこと。」
「そうだよ。」

私は、万年筆を使って手帳にメモ書きをしながらつぶやいた。

ほんとうかな…

……………………
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