大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【あひるの涙】

時は、8月11日の朝8時頃であった。

またところ変わって、シブシ駅のすぐ近くにある旅館にて…

白のランニングシャツとブリーフ姿の私は、ふとんに入って寝ていた。

この時であった。

(ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリン!!ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリン!!)

四角のハンドル式の黒電話機からけたたましいベルが鳴り響いていた。

「ったくもー!!」

ものすごくいらついた様子でふとんから出た私は、受話器を取ったあと怒った声で言うた。

「はいコリントイワマツヨシタカグラマシー!!…つないでください!!」

(カチャ…)

電話がつながったあと、私は再び話をした。

「ああ、徳田さまですね…おはようございます…はい…それでは10時にシブシ港で…よろしくお願いいたします。」

……………………………

時は、10時5分頃であった。

またところ変わって、シブシ港の近くにある広場にて…

私は、数也《かずや》さんと一緒にお話をしていた。

数也《かずやさんは、申しわけない声で私に言うた。

「コリントさま、きのうはコリントさまのお気持ちをいらだたせて申しわけございませんでした。」
「いえ、こちらもご配慮が足りずに申しわけございませんでした。」

私は、ひと呼吸したあと数也《かずや》さんに声をかけた。

「あの〜…13年前に発生した例の強姦殺人事件の容疑者・尾儀原竜史《おぎわらたつし》のことについておたずねしますが…尾儀原《おぎわら》はお母さまの弟さまですね。」
「はい。」
「…と言うことは、あなたの伯父《おじ》さまにあたります…よね。」
「はい。」

数也《かずや》さんは、私に対して深刻な表情で言うた。

「コリントさま。」
「はい。」
「母のことでございますが…あれは…実の母親では…ありません。」
「実のお母さまではない?」
「今の母は、ぼくが小学校に入学する前に出会いました。」
「それじゃあ、お父さまと今のお母さまは…再婚した…ですね。」
「はい。」

数也《かずや》さんは、私に対してこう言うた。

「私の…実の母親は…交通事故で亡くなりました。」
「実のお母さまは、交通事故で亡くなられたのですね。」
「はい。」
「今のお母さまがお父さまと再婚したきっかけは?」
「竜史《たつし》が悪いことをしたからです。」
「えっ?…伯父さまが悪いことをした?」
「はい。」

数也《かずや》さんは、ひと呼吸したあと私に対してわけを説明した。

「竜史《たつし》は、東京にある私立大学に在籍していた時に…学生運動にカタンしていたのです。」
「学生運動にカタンしていた…」
「はい…竜史《たつし》は、先輩に無理やりさそわれた形で…」
「学生運動に…カタンしたのだね。」
「はい。」

数也《かずや》さんは、私に対して声をかけた。

「コリントさま。」
「はい。」
「コリントさまは、今から14年前に発生したあの事件をご存じでしょうか?」
「あの事件って?」
「東京大学安田講堂事件です…457人の学生たちが逮捕された事件です。」
「あなたの伯父さまも…その事件にかかわったのですか?」
「伯父はその時…別の場所で行われていた…デモに参加していました。」
「デモに参加していた…」
「はい。」
「伯父さまは、安田講堂事件が発生した昭和44年1月18日頃に…別の場所で行われていたデモにカタンした…デモにカタンしていたことが当時伯父さまが在籍していた大学に伝わった…」
「…ので…放校されました。」
「その後は?」
「出身地の愛知に帰りました。」
「伯父さまは、出身地に帰ったあとにまた大学へ行ったのだね。」
「はい…愛知県内《じもと》にある私立大学へ転学しました…そこは、伯父が在籍していた私立高校《コーコー》の付属大学《フゾク》でした…伯父の両親が高校を卒業する前に紐づけしてくださいとあらかじめ頼んでいたのです…それで…」
「大学へ行くことができたのだね。」
「はい。」
「それじゃあ、伯父さまはなんで強姦殺人事件を犯したのですか?」

深刻な表情を浮かべている数也《かずや》さんは、私に対してわけを話した。

「コリントさま…強姦殺人事件で亡くなられた阿波野小巻《あわのこまき》さんは…名古屋にある文系の大学に在籍していた時に、ミスコンで入賞した女子大生でした。」
「あなたの伯父さまは…その…被害者の女性になんらかのあこがれを抱いていたのだね。」
「いいえ。」
「違うの?」

数也《かずや》さんは、私に対してわけを話した。

「竜史《たつし》は…友人に頼まれて…事件にカタンしたのです。」
「友人に頼まれた…その友人と言う人は?」
「被害者の女性の元カレでした。」
「小巻《こまき》さんの元カレに頼まれた?」
「被害者の女性の元カレは、結婚することを前提に真剣交際《おつきあい》をしていました…しかし…被害者の女性の父親が決めた相手の男性とお見合いして結婚することが決まったので…」
「別れさせられた。」
「はい。」
「それで強姦殺人事件に至った…」
「そう言うことになります。」
「その…小巻《こまき》さんの元カレと言う男は…」
「名古屋高裁《こうさい》で受けた死刑判決に対して、最高裁へ上告しました。」
「まだ刑は確定していないのだね。」
「はい。」
「あとの9人のうち、7人は死刑執行後に亡くなられたのだね。」
「はい…今、刑を受けている男と伯父は、グループの中で弱い立場に置かれていました。」
「弱い立場に置かれていた。」
「はい。」
「よく…分かりました。」

話は、そこで終わった。

……………………………

(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

時は、午後2時半頃であった。

私は、国鉄日南線《にちなんせん》の各駅停車《どんこう》に乗って再び旅に出た。

車内の座席の上に1981〜1983年の3年手帳がひらいた状態で置かれていた。

私は、万年筆を使ってメモパッドに記載されている内容を手帳に転記する作業をしていた。

13年前に発生した強姦殺人事件の主犯の男(被害者の元カレ)は、最高裁へ上告した…

8人の男のうち7人は絞首刑で死亡した…

懲役6年の判決を受けた男は、今も刑務所にシュウカンされている…

そして尾儀原《あのヤロー》は今も逃走中だ…

一体なにがどうなっているのだ…

…………………………

(ゴーッ…)

時は、夜7時頃であった。

宮崎ブーゲンビリア空港からやってきた東亜国内航空機が福岡空港に到着した。

私は、ショルダーバックを持って飛行機から降りたあと空港の正面玄関へ歩いて向かった。

……………………

(ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ…)

それからまた2時間半後であった。

私は、福岡空港《くうこう》の正面玄関前でヒッチハイクした長距離トラックに乗って再び旅に出た。

トラックは、国道3〜210号線を通ってうきは市方面へ向かった。

車内にて…

助手席に乗っている私は、万年筆を使ってスーパーマップルの九州地方の道路地図に書き込みをしながらまわりの様子を見ていた。

このややこしいもめごとをどうにかして片付けないと…

先に進むことができない…

…………………………
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