大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【悲しみの訪問者】

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時は、夜8時頃であった。

ほたるさんと私は、下りの特急にちりんに乗って宮崎・鹿児島方面へ向かった。

ほたるさんと私は、向かい合った状態で席に座っていた。

私は、ひざの上にショルダーバックをのせた状態で座席に座っていた。

ほたるさんは、向かいの席に座っている私に対して声をかけた。

「三永《みえ》ちゃんの上の息子さんは、延岡市内《しない》にある大手繊維化学メーカーの工場で働いていたわよ。」
「工場で働かれていたのですね。」
「うん…作業場で段ボール箱を作る作業をしていたわよ。」
「段ボールを作る作業をしていた…のですね。」

ほたるさんは、ものすごくつらい表情を浮かべながら『うん』と言うた。

私は、ほたるさんに声をかけた。

「ほたるさん…ほたるさん。」
「よーくん。」
「ほたるさん…どうかなさいましたか?」

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「ごめんなさい…ちょっと…体調がよくないのよ。」

……………………………

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「三永《みえ》ちゃんの上の息子さんは、『3年前』の事件のあと家出したのよ…家出してから3日目にダンナ方の親類の人の紹介で大分県《おおいた》にある大手精密機械メーカーの工場に再就職したのよ…従業員寮に住み込みで働く暮らしを続けていたのよ。」
「延岡に来たのはいつ?」
「今年の4月の始め頃よ。」
「それまでのあいだは、どちらにいたのですか?」
「大分県《おおいた》の工場をやめたあとは、2年ほど熊本県《くまもと》の製造工場で働いていたのよ。」
「そして今年…延岡にやって来たのですね。」
「そうよ。」
「だったら問題ないと思います…ほたるさん…ほたるさん。」

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「よーくんの言うとおりに問題はないわよ…だけど…工場長さんは、三永《みえ》ちゃんの上の息子さんが高校に行ってないことをすごく心配していたのよ。」
「それはどう言うことでしょうか?」
「だから、工場長さんは三永《みえ》ちゃんの上の息子さんを高校へ行かせてあげたいと言うたのよ。」

……………………………

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「三永《みえ》ちゃんの上の息子さんの雇用期間は来年の3月31日までと決まっているのよ。」
「それじゃあ、4月1日以降は雇いませんと言うことですね。」
「だから、工場長さんは『来年の4月からは高校へ行きなさい』と言う条件つきで雇い入れたのよ。」
「それは『高校を卒業していない人は働くな』と言うことでしょうか?」
「そうじゃないのよ〜…工場長さんは、上の学校へ行くことができなかった…と言う過去があったのよ。」
「工場長さんは、上の学校へ行かずに何していたのですか?」
「工場長さんの実家《いえ》がものすごく貧しかったので、上の学校へ行くことができなかったのよ。」
「上の学校へ行くことができなかったから、どうしたのですか?」
「だから、工場長さんは実家《いえ》を助けるために上の学校へ行くことをあきらめたのよ。」
「それでどこへ行ったのですか?」
「どこって…都会の店屋に行ったのよ…工場長さんは、実家《いえ》が貧しいことを理由に(旧制の)中学へ行くことを断念した…(旧制の)小学校を卒業したあと、大阪船場《せんば》にある呉服屋で丁稚奉公《でっちどん》のお仕事を始めた…朝早くから夜遅くまでせっせと働き通した…けれどその一方で、(旧制の)中学の制服を着た同い年のコたちが希望に満ちあふれた表情でガッコーの門をくぐって行くのを見て『ガッコーへ行きたい…』と言いながら泣いていたのよ。」
「工場長さんはなにもしなかったじゃないですか!!…上の学校へ行きたいと言うのであれば、ご主人に申し出たらよかったのですよ!!」
「よーくんの言う通りに、ご主人さまに申し出たらよかったのだけど…申し出ることができなかったのよ。」
「だから工場長さんは上の学校へ行かなかったのですね!!」

それから10秒後に私は再びほたるさんに声をかけた。

「話を変えるけど…三永《みえ》さんの上の息子さんは何時から何時まで工場で働いているの?」
「朝の9時から夕方の4時までよ。」
「お仕事が終わったあとは?」
「たしか、延岡駅前《えきまえ》にある学習塾《じゅく》へ行ってたわよ。」
「学習塾《じゅく》?」
「三永《みえ》ちゃんの上の息子さんは、全日制の高校《ガッコー》を受験するために必要な学力をつけるために学習塾《じゅく》に行ってるのよ…それは、大分県《おおいた》や熊本県《くまもと》にいた時も働きながら学習塾《じゅく》へ通っていたのよ…だけど…まだ合格していないのよ。」
「……………………」
「三永《みえ》ちゃんの上の息子さんは、工場長さんから繰り返して言われた言葉を聞くたびに苦痛を感じていたのよ…いつになったら合格できるのか…こんなにがんばっているのに合格できない…」
「だけど…工場長さんの期待に答えなきゃ…と言う気持ちが先に出ていた…それじゃあ一体どうしたいのですか?」
「わかんないわ。」
「………………………。」

話は、そこで止まった。

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ほたるさんと私が乗っている特急列車《れっしゃ》は、宮崎・鹿児島方面へ向かって走行した。

……………………………
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