大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【悲しい女】

時は、12月19日の夜8時半頃であった。

またところ変わって、松山市内にある伊佐山《いさやま》さんの家にて…

家の18畳の大広間に喪服姿の親類の人たちが集まっていた。

大広間に祭壇が安置されていた。

祭壇の前にある棺《ひつぎ》の中に伊佐山《いさやま》さんが安置されていた。

伊佐山《いさやま》さんは、12月16日の夜遅くに吐血したあと容態が急変した。

それから18日の明け方頃にかけて体力が少しずつ衰弱した。

18日の明け方5時半頃にキトクにおちいった。

それから2時間半後に伊佐山《いさやま》さんは、滞在先の老健施設《しせつ》でお亡くなりになられた。

ショルダーバックを持って旅を続けていた私は、12月18日の明け方頃に伊佐山《いさやま》さんが滞在している老健施設《しせつ》へ行った。

伊佐山《いさやま》さんがお亡くなりなられてから数時間後に老健施設《しせつ》を出て伊佐山《いさやま》さんのご自宅へ行った。

告別式は、12月20日に自宅で執り行われる予定である。

私は、告別式が終了するまでのあいだ伊佐山《いさやま》さん方に滞在する予定であった。

……………………………

ところ変わって、家の台所にて…

家の台所に私とほたるさんと伊佐山《いさやま》さんの孫娘さん(30歳)がいた。

ほたるさんは、私が心配になったのでここに会いに来た。

……………………………

大広間から親類の人たちがおしゃべりしている声が聞こえた。

私は、孫娘さんが洗った食器類を白い布で拭き取る作業をしていた。

ほたるさんは、親類の人たちがお酒のシメでいただく五色そうめんのニュウメンのおつゆ(鯛のおつゆ)を仕込む準備をしていた。

ほたるさんは、孫娘さんに対して『おつゆの仕込みができました』と声をかけた。

孫娘さんは『ありがとうございます。』と言うたあと、台所から出た。

…………………………

それから1分後であった。

私は、荒い終えた食器類を白い布で拭き取る作業を終えて一息ついたところであった。

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「よーくん。」
「なあにほたるさん。」
「大事な話をするから聞いてちょうだい。」
「大事な話?」

ほたるさんは、私に対してさびしげな表情で言うた。

「よーくん…来年の春に新しいお店をオープンすることが決まったわよ。」
「新しいお店を始める…のですね。」
「うん。」
「場所は?」
「(大阪)ミナミよ。」
「ミナミ。」
「大阪で暮らしている(ほたるさんの店で働いていた)元ちーちゃん(チーママ)の紹介で…ミナミの一等地にあるテナントビル(にある店舗物件《ぶっけん》)を借りたのよ。」
「そうですか。」
「元ちーちゃんと一緒にお店を営むことが決まったことを伝えておくわ…今度は、ひとつの都市《まち》に長くいることができるようにがんばるわ。」
「………………………。」

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「よーくんはどうするの?」
「私?」
「君波のダンナ(大番頭《おおばんと》はん)たちとジナさん(マァマ)とドナ(姐《ねえ》はん)さんを探しているけど…見つかったの?」
「まだ…見つかっていません。」
「そう。」

私は、ほたるさんに対してこう言うた。

「オレ…告別式《そうぎ》が終わったら、韓国へ行く予定です。」
「韓国。」
「マァマとドナ姐《ねえ》はんの実家へ行きます。」
「ジナさんとドナさんの実家へ行くのね。」
「マァマとドナ姐《ねえ》はんは、韓国へ一度帰っていると思います…それに、ソヒ姐《ねえ》はんも行方不明になっているので…ますます心配になりました。」
「ソヒさんも行方不明になっているのね。」
「(道後の)伊佐爾波坂《いさにわ》の置屋へ行った…けれど…ソヒ姐《ねえ》はんはまだ帰ってませんと言うてました。」
「ジナさんとドナさんの実家の家族の人たちに聞いてみたの?」
「イナ姐《ねえ》はんに聞いたけど、ソヒ姐《ねえ》はんも音信不通になったと言うた。」
「困ったわね。」
「どうすることもできないよ。」
「それじゃあ、ロスアンゼルスで暮らしている弁護士さん夫婦は?」
「ケントさん夫婦の法律事務所《じむしょ》に国際電話《でんわ》をかけたけど、つながらなかった。」
「そう…つながらなかったのね。」
「大番頭《おおばんと》はんたちとマァマとドナ姐《ねえ》はんの居場所を知ってるのはケントさん夫婦の法律事務所《じむしょ》のスタッフさんたちだけど…そのスタッフさんたちもまた音信不通になった。」
「困ったわね。」
「放浪《このたび》の終わりが見えない…どうすることもできない…いつになれば放浪《このたび》は終わるのか…どうすることもできない!!…ハア…」

私は、がっくりと肩を落とした状態で座り込んだ。

その後、再び立ち上がった私はキッチンの台に置かれていたショルダーバックに収納されている手帳を取り出した。

私は、手帳のウィークリーメモ(カレンダー)に書かれている予定を見たあとショルダーバックに手帳を収納した。

この時、ほたるさんはココシャネルのロゴ入りのハンドバッグの中に収納されていた伊予銀行のロゴ入りの紙ふうとうを取り出した。

ほたるさんは、私に対して紙ふうとうを差し出しながらさびしげな表情で言うた。

「よーくん…お別れの印よ。」
「お別れの印?」
「うん…ミナミのお店の開業資金の余りの一部よ…500万円が入っている小切手よ…小切手を銀行に持って行って…現金に替えてもらいなさい。」
「ありがとうございます。」

私は、紙ふうとうに入っている小切手を受け取ったあとショルダーバックに収納した。

その後、私はほたるさんに声をかけた。

「ほたるさんはこれからどうなさるのですか?」
「年内は松山《ここ》に滞在する予定よ。」
「分かった…もし何かあったらほたるさんの元へ行きます…ほたるさんは今どちらで暮らしていますか?」
「カヤマチのマンションで暮らしている元ホステスの部屋に滞在しているわよ…大みそかの夕方4時頃まではそこにいるから…」
「分かりました。」
「元気でね。」

ほたるさんは、私に対して別れを告げたあと土間に置かれているゾウリを履こうとした。

この時、ほたるさんは私に対して声をかけた。

「よーくん。」
「なあに?」
「もうひとつ、頼みごとがあるのよ。」
「はい。」

ほたるさんは、ハンドバッグの中からかわいい柄のふうとうを出した。

ふうとうの表面には『親展』と書かれていた。

ほたるさんは、私に対して声をかけた。

「よーくん、親展書《このテガミ》をしほこちゃんに渡してね。」
「しほこ…たしか、(亡くなられた)徳田さんのメイゴさん…だった…と思う。」
「それはどうか知らないけど…もし、しほこちゃんと会ったら、親展書《このテガミ》を渡してね。」
「ほたるさんは、しほこさんとどんな関係があるのですか!?」
「高松で経営していたスナックで働いていた元ホステスよ。」
「ああ、塩上町にあった…」
「そうよ。」
「三永《みえ》さんの妹分にあたる人だった…そうですよね!!」
「そうよ…とにかくよーくん…しほこちゃんと会ったら親展書《そのテガミ》を渡してちょうだい。」
「ほたるさん、一体なにがあったのですか!?」
「よーくんはそんなことを知らなくていいのよ!!…とにかくしほこちゃんに親展書《そのテガミ》を渡してちょうだい!!いいわね!!」

このあと、ほたるさんは足早に家から出て行った。

私は、ほたるさんの後ろ姿を見つめながらつぶやいた。

ほたるさんとしほこのあいだで…

なにがあったと言うのだ…

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