大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【櫻(さくら)の花のように】

時は、12月21日の夜8時頃であった。

この時間、私は博多中洲川端の那珂川沿《かわぞ》いにある公園で営業している屋台にいた。

12月19日の夜遅くに松山市から出たあと、フェリーと鉄道を乗り継いで旅をつづけた。

博多に着いたのは、21日の夕方4時過ぎであった。

…………………………

屋台の中にて…

屋台のテーブルの上には、タンブラーに入っているいいちこ(大分の焼酎)のお湯割りとお皿にのっている大根と焼きちくわのおでんが置かれていた。

私は、いいちこのお湯割りをのみながら考えごとをしていた。

明日、どうしようかな…

マァマとドナ姐《ねえ》はんの実家がある韓国へ行こうか…

それとも…

入国管理局《にゅうかん》へ助けを求めに行こうか…

………………………

それからまた3時間後であった。

屋台から出た私は、あてもなく中洲川端《なかすかいわい》を歩いて旅をした。

通りには、若いカップルたちや若い女性のグループたちや大学生のグループたちが往来していた。

ショルダーバックを持ってあてもなく歩いている私は、悲しげな表情でつぶやいた。

私は…

これから先…

どう生きていけばいいのか…

大番頭《おおばんと》はんたちとマァマとドナ姐《ねえ》はんが今も行方不明になっている…

イワマツの財産一式がないと…

仕事ができない…

生きて行くこともできない…

お先真っ暗だ…

私は、日の出と同時に入国管理局《ニュウカン》へ行こうと決めた。

入国管理局《ニュウカン》に保護申請をしたあと、第三国へ向けて出国する手続きを取る…

その後は、生まれ故郷のカナダへ帰る…

だけど…

それからあとは…

どうすればいいのだ…

私は、そんなことばかりを考えながら歩いた。

その間に、私の足は少しずつだが福岡市内から遠ざかった。

……………………………

時は、12月22日の深夜4時過ぎであった。

私は、にしてつ二日市駅の駅舎の入口に設置されているベンチで休憩したあとショルダーバッグを持って再び旅に出た。

それからまた30分後であった。

私は、付近にあるアパートの前を歩いていた。

この時であった。

アパートの部屋で恐ろしい事件が発生した。

アパートの部屋からなさけない男の声と女の泣き叫ぶ声と布が思い切り破れた音が聞こえた。

「イヤ!!やめて!!イヤ!!」

(ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!)

「やめろ!!妻に手を出すな!!胎内《なか》に赤ちゃんがいるのだぞ!!」
「ふざけるな!!」
「てめえばかり幸せになりやがって!!」
「助けて!!誰か助けて!!」
「やめろ!!」

たいへんだ…

早く逃げなきゃ…

危険を察知した私は、大急ぎでアパートから立ち去った。

……………………………

またところ変わって、国鉄二日市駅にて…

ショルダーバッグを持って事件現場から逃げてきた私は、駅舎に入ったあと左腕につけているロレックスの腕時計を見た。

時計の針は、6時49分を指していた。

急がなきゃ…

長州組の連中が追いかけて来るかもしれない…

……………………………

駅の改札口にて…

私は、切羽詰まった声で駅員さんに言うた。

「すみません!!次の電車は何時に来ますか!?」
「どちらへ行かれるのですか?」

そんな中であった。

(ピンポーン〜)

この時、待合室のスピーカーからチャイムが鳴ったあと熊本行きの電車がホームに入りますのアナウンスが聞こえた。

下りのプラットホームに熊本行きの各駅停車《どんこう》の電車が入った。

途中の大牟田までは快速で大牟田からは各駅停車で運行される電車であった。

ショルダーバッグを持っている私は、大急ぎで下り電車に乗った。

それから3分後であった。

向かいのプラットホームに博多行きの各駅停車《どんこう》の電車が到着した。

その後、私が乗り込んだ電車が出発した。

次の停車駅は鳥栖(佐賀県)である。

鳥栖を出たあとの停車駅は、久留米と大牟田と大牟田から終点までの各駅であった。

久留米か大牟田で降りたあと、門司港行きの特急つばめに乗って折り返すしかない…

しかし、私は降りることができなかった。

恐ろしい事件現場を目撃したことが原因で足が凍りついて動くことができなかった。

そうこうして行くうちに、電車が久留米駅から出発した。

…………………………

それから数分後に電車が大牟田駅に到着した。

しかし、私は降りることができなかった。

門司港行きの特急つばめは、終点熊本駅で乗ることができる…

博多駅で降りたあとは、大急ぎで入国管理局《ニュウカン》へ行く…

そこから先は、どうしたらいい…

私の気持ちは、ひどく迷った。

大牟田駅を出発してから数分後であった。

私が乗っている電車が荒尾駅に到着した。

ショルダーバッグを持っている私は、荒尾駅で電車を降りた。

改札を通って駅から出たあと、私はめちゃめちゃに走った。

私の気持ちは、冷静になってものごとを考えることができる状態ではなかった。

ここはどこだ…

私は…

福岡の入国管理局《ニュウカン》へ行くのじゃなかったのか?

……………………………

時は、午前9時半頃だった。

ところ変わって、荒尾市大島町《しないおおしまちょう》の海に面した場所にあるさら地にて…

ショルダーバッグを持って旅を続けていた私は、沢の鶴の1・5合のワンカップ酒をのみながら海を見つめていた。

この時、私の両目から涙がたくさんあふれ出た。

つらい…

悲しい…

おんまく悲しい…

男一人で生きていくのは…

できない…

(ガシャン!!)

容器を持っていた手が震えたと同時に、コンクリートの上に容器を落とした。

容器がこなごなに割れたあと、のみかけのお酒が散らばった。

私は、その場に座り込んだあと震える声で泣いた。

「ううううううううううううううううううううううううううう…」

……………………………
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