大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【櫻(さくら)の花のように・その2】

時は、夕方6時半頃であった。

またところ変わって、国鉄長崎駅のコンコースにて…

ショルダーバックを持って再び旅に出た私は、荒尾駅から鹿児島本線《かごしません》と長崎本線《ながさきせん》の各駅停車《どんこう》を乗り継いで長崎駅《ここ》までやって来た。

外は暗くなった…

今夜食べるめしと寝床を確保しなきゃ…

ものすごくあせった表情を浮かべていた私は、駅の外へ歩いて向かった。

この時であった。

グレーのセーターと濃いネイビーのボブソンのジーンズ姿のしほこが私を呼びながらかけてきた。

しほこは、私のもとに到着したあと声をかけた。

「あの〜、すみません!!」
「はい、なんでしょうか?」
「コリントイワマツヨシタカグラマシーさまでございますか!?」
「コリントは私ですが…ねーちゃんは亡くなられた徳田さんのメイゴさんだね。」
「そうです。」
「ちょうどよかった!!オレ、ほたるさんから親展書《ことづけ》をねーちゃんに渡してくれとたのまれたのです!!ちょっとお待ちください!!」

私は、ショルダーバックの中に収納されている親展書《ことづけ》を出したあとしほこに渡そうとした。

しほこは、私に対して声をかけた。

「すみません。」
「えっ?」
「あの…その…」
「ねーちゃん!!オレはほたるさんから親展書《ことづけ》をねーちゃんに渡してくれと頼まれているのだよ!!」
「わかってます…あのコリントさま…場所を変えていただけますか?」
「場所を変えろだと!?」
「ほたるママからの親展書《おてがみ》は受け取ります!!その前に…おなかがペコペコなので…ごはんを食べてからにして下さい!!」
「それでは、どこか近くにあるごはん屋へ行きましょう。」

……………………………

時は、夜7時20分頃であった。

またところ変わって、西浜通り(アーケード街)にある居酒屋にて…

しほこと私は、個室席にいた。

テーブルの上には、枝豆と冷ややっことアルミのタンブラーに入っているサントリーオレンジ50とサントリータコハイの梅味が置かれていた。

しほこは、身体のことを考えてオレンジ50(ソフトドリンク)にした。

しほこは、私に対して声をかけた。

「コリントさま。」
「なんぞぉ〜」
「コリントさま、お金を持っていますか?」
「カネ?」
「はい。」
「ねーちゃんは、お金を持たずに長崎《ここ》まで来たのか!?」
「すみませんでした。」
「どうやって長崎《ここ》まで来たのだ!?」
「覚えていません…」
「ねーちゃんはどこから来たのだ!?」
「丹原で暮らしているオバ夫婦の家から逃げてきました。」
「丹原から長崎《ここ》までどうやって来た!?」
「朝倉の洋品店の主人から娘さんが着ていた(洋服の)お下がりをいただきました…アタシ…ウェディングドレスを着たまま逃げ出したのです。」
「ウェディングドレスを着たままで逃げ出した?」
「はい。」
「ウェディングドレスはどうしたのだ!?」
「質屋に売りました…洋品屋の主人が手続きを取ってくださいました。」
「そのカネを受け取ったあと、長崎《ここ》まで来たのだね。」
「はい。」
「一体なにがあったのだ!?」
「わかりません。」
「なんて言うか…ウェディングドレスを着たままで親類方から逃げ出した…と言うのは…どう言うことだよ!?」
「だから!!結婚するのがイヤなのです!!」
「結婚するのがイヤ?」

しほこは、アルミのタンブラーに入っていたサントリーオレンジ50を一気にのみほしたあと私に対してこう言うた。

「アタシ…妊娠しているのです。」
「妊娠している?」
「はい…来年…(妊娠)5ヶ月目になるのです。」
「胎内にいる赤ちゃんの父親はだれや?」

私の問いに対して、しほこは答えなかった。

それから数秒後であった。

しほこは、私に対してわけを話した。

「アタシ…集団レイプの被害を受けました…いつ頃かは覚えていません…」
「集団レイプの被害を受けた?」
「胎内にいる赤ちゃんの父親は…集団レイプのグループのリーダーです。」
「分かった…それよりも、胎内にいる赤ちゃんはどうするのだ!?」
「どうするって…中絶《おろ》すしかないわよ。」
「中絶《おろ》す!?…ねーちゃんは本気で言うたのか!?」
「だって…育てる自信がないのよ!!」
「ねーちゃんは育てる自信がないからと言うて赤ちゃんを中絶《おろ》したいと言うけど、胎内にいる赤ちゃんはどうなるのだよ!?…ねーちゃん…ねーちゃん!!だまってないでなんとか言えよ!!」
「無理よ…無理よ!!」
「なにが無理だよ!?」
「ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…」

しほこは、ぐすんぐすんと泣きながら私に言うた。

「アタシは、結婚に向いてない女よ!!」
「結婚に向いてないだと!?」
「アタシは、生まれた時から縁がなかったのよ!!…生まれた時から恋愛運がなかったのよ!!ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…」

しほこは、テーブルの上に顔をふせたあとぐすんぐすんと泣きじゃくった。

……………………………

(ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…)

時は、深夜11時過ぎであった。

またところ変わって、国鉄長崎駅の近くにあるホテルのツインルームにて…

しほこは、浴室でシャワーを浴びていた。

部屋にいる私は、今日1日に使った費用を計算していた。

しほこは…

長崎《ここ》に来るまでのあいだに…

カネを使い果たしたのかもしれない…

……………………………

時は、深夜11時半頃であった。

シャワーを浴び終えたしほこは、白の色のブラジャーとショーツ姿で部屋に入った。

私は、下着姿のしほこに対して声をかけた。

「ねーちゃん。」
「はい。」
「着替えはないのか?」
「ジーンズと白のブラウスとセーターしかありません。」
「着替えを持たずになにをしていたのだ(ブツブツ…)」
「アタシの着替えは、丹原の親類の家に置いてきたのです。」
「カネも丹原の親類の家に置いてきたのか!?」
「はい。」
「ねーちゃん…ねーちゃん!!」
「はい。」
「ねーちゃんの頭の中は…逃げることしかないのかよ!?」
「………………………」

私は、しほこに対してややイラついた声で言うた。

「よそ見しないで人の話を聞けよ!!」
「すみません。」
「ねーちゃんの頭の中は、逃げることしかないのかよ!!」
「コリントさまにそのように言われたら…ハンロンできません。」
「ねーちゃん、ねーちゃんは結婚のどう言うところがイヤなんだよ!!」
「どう言うところがイヤって?」
「結婚相手が気に入らないのか…それとも、お見合いの席で相手方の家の人たちからイヤミを言われたのか!?」
「それもありますが…アタシは…自分自身を見つめ直したいのです…自分自身を見つめ直したいのです!!」
「それだけか!?」

私の問いに対して、しほこはつらい表情で首をたてに振った。

私は、あきれた表情でしほこに言うた。

「自分自身を見つめ直したいだと!?…ねーちゃんはそのように言うけど…自分探しをするのもいいかげんにしろ!!」

私に怒鳴られたしほこは、ベットに寝転んだあとふとんに潜り込んだ。

「グスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスングスン…」

ふとんの中に潜り込んだしほこは、グスングスンと泣いていた。

私は、冷めた目つきでしほこを見つめながらつぶやいた。

ねーちゃんは、自分を磨く方法を知らないようだ…

だからだめになったんだよ!!

…………………………

この日、私は一晩中考えごとをしていたので寝なかった。

……………………………
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