偽りの夫婦〜溺愛〜
「―――――じゃあ、双葉。
行ってくるね!」

準備をして、キッチンで片付けをしている双葉に声をかけてくる紅羽。

「はい!」
双葉は微笑み、紅羽に駆け寄った。
そして弁当を渡す。

「ありがとう!
無理はしないでね?」

「無理してないですよ?
私は、紅羽さんの“妻”ですよ?(笑)
専業主婦、頑張ります!」

「フフ…!そうだね!
行ってきます、僕の“奥さん”」

「いってらっしゃい、私の旦那さん!」

玄関で見送る。
玄関ドアを開けようとした紅羽。
一度、ピタリと止まる。

「ん?紅羽さん?」 

振り返った紅羽。
「僕達は、夫婦だよね?」

「え?はい」

「じゃあ…いいよね?」
そう言って、紅羽の顔が近づき……

チュッ!とリップ音をさせて、頬にキスをした。

「……/////」

「じゃあね!」
そう言って、今度こそ出ていった。


放心状態の双葉。

共同生活を始めて、一ヶ月。
双葉は、毎日がドキドキの連続だ。

頭を撫でながら愛でるのは、日常茶飯事。
基本的に紅羽は、ずっと傍にいてくれる。
先週、同僚に飲み会に誘われたようだが“双葉を一人にさせられない”と言って、断ったらしい。
休日も、買い物やデートに連れて行ってくれるのだ。

“お互い自由にしよう”

そう決めたのに、紅羽は双葉の予定に合わせてくれているのだ。

錯覚しそうになる。
互いに愛情はないのに“愛されている”感覚になるのだ。

もしかしたら、無理をさせているかも?

そう思った双葉。
まず、友人のカヨに連絡を入れた。

『お疲れ!双葉どうしたー?』

「カヨ、頼みがあるんだけど…」

『ん?』

「今日、夜あいてる?」

『うん、あいてるけど…
旦那は?』

「うん…」

『え?大事にしてもらってるんでしょ?
政略結婚とは思えないくらいに』

「だから…かな?」

『え?』

「とにかく!
たまには、夕食一緒しない?」

『私は構わないけど…』

「じゃあ、よろしくね!」


そして双葉は、紅羽にメッセージを入れた。

【紅羽さん、お仕事お疲れ様です!
今日の夕食ですが、友人と食べることになりました。
すみませんが、今日は別々でお願いします(⁠ᗒ⁠ᗩ⁠ᗕ⁠)
紅羽さん用の夕食は作って、冷蔵庫に入れておきますね! 
あ、でも!もし紅羽さんも外食するなら、食べなくても構いません!
無理はしないでくださいね☆】
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