【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 身支度を整えてから、クレマンのテントへ向かう。

「あの、起きてる……?」

 とりあえず声をかけてみたが、返事はない。

 こっそりとテントの中に入り、きょろきょろと辺りを見渡した。

 ベッドに人が寝ているようだった。起こさないようにそうっと足を進ませて、その端正な顔を見つめる。

(本当……綺麗な顔……)

 幼い頃のエルヴィスの姿は、今でも鮮明に思い出すことができる。その姿を目にしたのはほんの少しだというのに。

 アナベルの視線に気付いたのか、エルヴィスがゆっくりとまぶたを上げる。

 人の気配に敏感なのかもしれないと、慌てて離れようとしたが、ぐっと手首を掴まれた。

「……ああ、きみか。昨日はいきなりすまなかったね」
「いーえ、陛下のような美形の寝顔を見られただけでお釣りがくるってもんさ。あたしのほうこそ、ごめんなさい、世話をかけたよね」

 昨日の自分のことを思い出して、アナベルは恥ずかしそうに頬を染める。

 子どものように泣きじゃくり、泣き疲れて寝てしまうなんて、成人してから初めてのことだったから、顔から火が出そうだ。

「いや、ずっとつらい思いをしてきたのだろう。少しはスッキリできたかい?」
「おかげさまで。今ものすっごく恥ずかしいけどね……」

 赤くなった頬を隠すように、視線をそらす。

 エルヴィスがくすりと笑った気配がして、アナベルの手を離すと「先にテントから出るよ」と足早に去ってしまった。

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